第6話 ルーシアは気づく
”初心者がスライムを一撃?”
”それも忍者とかありえない”
”本当は経験者なんじゃない?”
配信している動画にコメントが流れている。
そんなことが初めてだったのと、スライムを一発で倒せてしまったことに俺はてんぱっていた。
「あ、コメントありがとうございます! でも……でも経験者じゃないんだよ。本当に初心者なんだ」
アワアワしている俺を見て、エリスが浮いているドローンの方を向いて画面の向こう側にいる人たちに向けて口を開く。
「英二は本当に初心者だぞ。レベルだって確かに1だ。ほら」
それはベテラン配信者のような佇まい。
慌てることなくどこまでも冷静な態度でエリスは俺のステータスを配信画面に映し出す。
「個人情報! お願いだから俺のステータスを見せないで!」
「でも信じてもらうにはこれが一番早いのでは?」
「それはそうだけど……」
別にステータスを皆に知られたところでどうってことはないけど、でも自分の弱い能力を知られるのはちょっと恥ずかしい。
エリスの姿をドローンが捉えている間、俺は動画視聴者数を確認する。
その数はなんと22人!
登録者数はゼロなのに22人も見に来てくれるとは……美人バフ恐るべし!
”本当にレベル1だ”
”忍者wwwマジで忍者www”
”冒険者を辞めることをおススメする”
”エリスちゃん可愛い”
どうやら視聴者は俺が初心者だというのを信じてくれたようで、俺はホッとため息を漏らす。
しかしなんでこんな簡単にスライムを倒せるのだろう。
俺は配信を気にしつつ、そちらの方にも思考を巡らせる。
「英二がなんでスライムを倒せたか。それはおいおい調べるとしよう。でも今は時間が惜しい。倒せるならさっさと雑魚を倒してレベル上げをするぞ」
「あ、ああ。そうだな」
確かに悩んで何もしないのは時間の無駄。
動きながら考えることは可能なはずだ。
エリスに言われた通り行動を再開させる俺。
スライムは近くにもいる。
残念ながら【忍足】を再発動させるほどのMPも無く、俺はスキルを使っていない状態でスライムへ近づいて行く。
当然ながら敵はこちらに気づき、俺と同じように接近を開始する。
スライムがバネのように体を伸縮させ、そして勢いよく飛び込んできた。
「くっ!」
俺は半身ほど後退し、それを回避した。
スライムは地面に着地し、俺に背中を向ける形となる。
一刀両断。
俺の短刀はまた簡単にスライムを切り伏せてしまった。
”いやいやなんで勝てるんだよwww”
”初心者が単独でモンスターを倒せるとかどんな冗談?”
”やっぱり経験者でしょ釣り乙”
「いや、だから本当に初心者なんだって! 昨日初めて『ダンジョン』に来たんだから。勝てる理由は……見当もつきません」
連続でスライムを倒したことに視聴者からは懐疑的なコメントが相次いでいた。
俺としても原因究明したいところだけど、自分にも何が起こったのか分からないんだって!
困り果てる俺ではあるが、同時に高揚もしていた。
勝てる……モンスターと戦えている。
【忍者】なんて最低なスタートと思ってたけど、現実問題として最弱のままで敵に勝てているのだ。
この調子ならもしかしたら……有名配信者になるのも夢じゃないかも。
夢に手が届く。
アスリートがメダルを狙える時なんかこんな気分なのだろうか。
自分レベルの人間がそんなことを考えるのもおこがましいけれど、でもそんな風に思わないでいられなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
「あわわわわ……またミスしちゃいました……なんで私はこんなにミスが多いの!?」
ルーシアは自宅で大慌て。
台所の端から端までグルグルと歩いていた。
彼女はあるべきはずの場所にあるはずの、とある物が無くなっていたことに困惑している。
そして無くなった原因も把握しており顔面蒼白となっていた。
「普通のお菓子と間違えて、あの人に【力の種】を出しちゃった……どうしよう……人間に加担しちゃいけないってルールだったのに、とんでもなく加担しちゃいました」
英二がルーシアに出された豆菓子。
あれは【力の種】という人間の腕力を上昇させるとんでもないアイテムであったのだ。
本来なら適当な宝箱などに入れて人間に分け与えるレアアイテムのはずなのだが……それを英二にバカ食いさせてしまった。
ルーシアは世界のバランスを崩しかねないことをしてしまったことに愕然とし、どうやってこの状況を誤魔化すか全力で思案する。
「どうしよう……どうやっても神様に怒られますよね。どうしましょう!!」
頭を抱えるルーシア。
そこで自身の足元を転がっているお茶の葉を入れている容器を見てさらに驚愕する。
「あ……あああ……あわわわわわわわ」
その容器には【限界突破茶】と表記されており、英二にお茶を出したつもりであるが、それを出してしまったことに気づく。
「えらいこっちゃ……二重でやってしまった……【力の種】だけに飽き足らず、【限界突破茶】まで出しちゃいました……これは怒られるだけじゃ済まないかも」
ルーシアは白目を剥いて意識を失いつつあった。
できたら夢であってほしい。
もしくは神様がこのことを知ることなく、彼が死ぬまで気づかないでほしいと。
だが虚しくも現実は彼女に襲い掛かる。
神様の雷が彼女の頭に落ちるまで数時間。
ルーシアは怯えながらそれまでの時間を過ごすのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます