第5話 スライム再び
『ダンジョン』に入るルールは特になく、来たい時間に来れば進入することができる。
但し問題は日付が変わる頃だ。
丁度12時になるタイミングで『ダンジョン』内の構造が変化する。
これだけは注意しておかないと自分がどこにいるのかが分からなくなってしまうからだ。
だが俺にはそんなことは関係無いだろう。
何故なら『ダンジョン』に来るとしても昼過ぎぐらい。トラブルに巻き込まれない時間帯だ。
現在俺はエリスと共に『ダンジョン』に来ていた。
時間はもちろん昼を超えた辺りだ。
エリスは戦士の鎧を身に纏い、俺は無料で提供してもられえる冒険者の服を着ている。
武器も『ギルド』で提供してもらえる物。エリスは剣を、俺は短刀をもらった。
「最低限の装備は整ったけど……何とかなるかな」
「何とかならないなら何とかなるまで努力する。それだけの話だろ」
弱気な俺に対して強気なエリス。
彼女は自分のステータスを確認しており、俺はちらっとその内容を盗み見した。
「レベル11って……強いんだなエリスって!」
「そうか?」
「そうだよ……レベル10を超えてる人なんてまだまだ少ないと思うぞ」
現在『ダンジョン』の攻略は3階層まで進んでいると言われている。
3階層まで到達できる者はレベル20前後。
2階層まで進める者はレベル10を超えるぐらいのようだ。
階層ごとに敵の強さが段違いとなるので、最低限の力が付くまでは次の階層に行くことは禁じられている。
その辺りを管理しているのが『ギルド』なのだが……たまに配信者が無茶なアタックをして死ぬなんて話は何度も耳にした。
三階層に行ける人は別次元の強さだとして、二階層の攻略レベルまで到達している者は5%程度だと聞く。
そう考えるとエリスのレベル11は中々のものだ。
俺レベルが組んでいいような人じゃない。
それだけは確かだ。
「ならいいことだな。レベルが高いってことは、英二を守れるということだろ?」
「そうだけど……エリス一人で冒険者していた方が金は稼げそうだけどな」
「金を稼ぐのは大事だが、英二に恩返しをすることの方がずっと大事だ。自分を卑下するようなことはもう言うな。英二は見ず知らずの人を助けられる、すばらしい人のなのだから」
俺が考えていることをエリスは感じ取っていたのだろう。
そんなことを言ってくれ、目頭が熱くなる思いであった。
「ありがとう。そう言ってもらえると心が救われるよ」
「では早速『ダンジョン』の攻略を始めるとするか」
エリスの言葉に俺は頷き、配信ボタンを押す。
配信を観てもらうにあたり、エリスの顔をサムネイル画面に設定した。
俺みたいなおっさんの顔よりも美女が映っている方がクリックされる可能性も高まるであろう。
俺のチャンネル登録者はゼロであるが、エリスがいてくれるおかげで増える予感。
ワクワクした気分で攻略配信を開始した。
「どうも【忍者】の英二です」
「【戦士】のエリスだ。今日は最弱の【忍者】を育ててみた第一弾。良かったら楽しんでいってくれ」
自分が弱いことを逆手に取り、皆が興味持ってくれそうな内容にしておいた。
エリスの容姿と合わせてある程度はファンを増やせる算段なのだが……上手くいってくれるといいな。
ちなみに配信タイトルは『女戦士が初心者忍者を育ててみた』である。
配信を開始して二分。
早速配信を観てくれる人が現れた。
コメントこそ無いが、『視聴者数』のカウントが動いた。
「よし!」
俺は配信にも映らないようにガッツポーズを取る。
エリスは配信にはあまり興味は無いようで『ダンジョン』の攻略の方に意識を傾けていた。
「まずはスライム退治から始めるとするか。あれならサポート込みで倒せるだろう」
「記憶喪失なのによく知ってるな」
「ああ。不思議なことにそれはよく覚えている。記憶が無くても服のことは分かるし、親という存在も理解している。覚えていないのは自分のことだけのようだ」
「なるほど……とにかくスライムを倒しに行くか」
先日は奇跡的にスライムを倒すことができたが、あんなことは二度と起こらないだろう。
きっとあれだ、クリティカルヒットでも出たんだろうな。
ゲームでよくある会心の一撃だ。あれが出たに違いない。
今日は自力で倒さなければならなく、俺は緊張をしていた。
でもエリスがいる分、幾分かは楽な気分ではあるが。
「いたぞスライムだ。私が援護する。リラックスして戦え」
「わ、分かった」
ゴクリと息を飲む俺。
『ダンジョン』を少し進んだ場所にスライムがいた。
俺がゆっくりとスライムに近づいていくと、エリスは堂々と俺の後ろを付いて来る。
レベル11ならスライム程度には動じないんだろうな。
俺だってそうなりたい。
そしてそうなってみせる。
そんな気持ちでスライムの攻略を開始した。
「【忍足】発動」
スキル【忍足】を使用してスライムへと接近して行く。
【忍足】の効果がある間は、敵はこちらに気づかない。
素晴らしいスキルではあるが、【忍者】の攻撃力では一撃でスライムを倒すことはできない。
この力不足感が【忍者】にダメレッテルを貼られている所以だろうな。
「はっ!」
そんなことばかり考えていても仕方ないので、一気に距離を詰めてスライムに攻撃をした。
それは短刀を振り下ろしただけの単純な一撃。
「へ?」
だがその一撃でスライムは見事に四散してみせる。
あまりにも簡単すぎて俺はおろか、エリスさえも呆然としていた。
「スライムを一撃で……どうなってるんだ?」
「わ、分からない……俺にも分からないよ」
前回と同じくスライムを一撃で葬ることができた俺。
本当にどうなってるんだ!?
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