魔王

 ところが、村に凱旋を果たしたその日の夜、酔い潰れた俺を殺そうと国王の親衛隊が村を襲撃してきた。


「勇者を殺せ!この機会に殺さないと、奴は必ず王国に仇なす存在になるぞ!」


 国王から魔王軍を追い払った功労者と褒め称えられたばかりなのに、親衛隊に襲われるなど夢にも思っていない。それでも必死に抵抗したが、酔っ払っていた上に装備もほとんど身につけていなかった俺は、瀕死の重傷を負ってしまった。


「勇者様っ!助けに参りました!」


 突如現れた聖女ルキアが、スキル“聖浄”で祭りの酒に仕込まれていた毒をあっという間に解毒して体力もフル回復してくれたおかげで、なんとか親衛隊を返り討ちに出来た。もっとも村長も両親も村のみんなは全員死んでいたが。


 当時の俺は国王に命を狙われたのかまったく理解出来なかったが、皇帝となった今ならわかる。権力者にとって、取って代わる力がある英雄というのは危険な存在なのだ。


「私のスキル“未来予知”が不十分なせいで、勇者様の大切な人々を救えず申し訳ございません!」


 ルキアは平謝りしてたが、もちろん感謝しかない。あえて言うならこの時死んでいた方が楽だった・・・・・・・・・・・・・・のかもしれないが。


 ルキアいわく、俺は「魔王軍を完全に屈服させて、王国に平和をもたらす神に選ばれし方」らしい。だから、国王の意向に逆らってまで俺を助けたんだとか。


「ルキアへの恩返しだ。国王を殺して王位を簒奪して、魔王だろうが大貴族だろうが平和を乱す奴は全員倒してやるよ」


 そうルキアに誓った俺は、まず戦友である聖騎士団に事の顛末を伝えて俺に味方するよう呼びかけた。聖騎士団のトップに上り詰めていたのは、俺を勇者候補として迎えにきたエレノアだ。勇者パーティーの一員として七大将軍を討ち取った功績を評価されて、あっという間に騎士団長に駆け上がっていた。


「なんたる卑劣な国王の振る舞いっ!勇者フェリックス殿にお味方いたす。王都でのうのうと暮らしている国王や貴族どもに目にもの見せてやりましょう!」


 俺が野心など持っていなかったことをよく理解していたので、エレノアはすぐに同調してくれた。ほかの騎士団員も味方になった。終わりのない魔王軍との戦いに一息つかせてくれた恩人を、王都で贅沢三昧の国王や貴族どもが騙し討ちしようしただと?!


 こうして魔王軍七大将軍全員のスキルを持つ俺が率いる、魔王軍と死闘を繰り広げてきた精鋭中の精鋭である聖騎士団が反乱に立ち上がった。国王側の軍勢は数こそ多かったが敗北と大敗を繰り返し、ついに王都は俺の手に落ちた。


「勇者様、王国を円滑に統べるためにも国王レオナルドの命だけはお許しくださいませ。」


「村のみんなを皆殺しにしたのはレオナルドだ。いわばその張本人を殺すために反乱なのに、なぜ殺してはいけない?」


「国王レオナルドが勇者様謀殺の陰謀の中心にいたのは誰もが知っています。そんな国王ですら許されるなら、王国中の貴族も安心して勇者様にお仕えするでしょう。さらに国王の娘イリスと結婚すれば、勇者様は国王の婿となり王位を円滑に継承できます。どうか私の“未来予知”を信じてくださいませ」


 俺は渋々その提案を受け入れた。陰謀の首謀者とされたロベール伯は見せしめに殺したが、国王レオナルドは城の塔に生涯幽閉することで済ませた。もっとも、魔王を倒した後にこっそり毒殺してやったがな。


 ただ、ロベール伯から強奪したスキル“鑑定”は、国家の統治に随分役立った。身分に関わらず次々と優秀な人材を抜てきする事が可能となったのだ。俺の親衛隊とも言うべき勇者パーティーも最強の“部隊”といえる規模にまで拡大した。


 十五歳にして国王兼勇者となった俺は、満座に居並ぶ貴族どもの前でこう宣言した。


「魔王討滅すべし!」


 時期尚早と反対する貴族がうるさかったので、反対派貴族百人と俺一人で決闘してやった。力の差がありすぎたので一人二人は死んでしまったが、大多数の貴族は半身不随程度で済ませてやった。


 こうなると誰も魔王討滅に反対する者はいない。王国始まって以来の大軍が魔王領へ押し寄せると、魔王軍はみるみるうちに瓦解していった。七大将軍はすでに亡く、王国のクーデターに油断していたのもあったもだろう。まさかこんなにも早く俺が王国内をまとめて、しかも大軍で攻め寄せるなど予想不可能だ。


「勇者との一騎打ちを所望する!我が勝てば軍をひけ!勇者が勝てば、魔族のすべては勇者に降伏しよう!」


 魔王は俺にもはや勝てないことを分かっていたのだろう。完膚なきまでに魔王が負ける姿を魔族に見せることで、無駄な抵抗を止めさせたかったのだ。腐りきった国王と比べて、なんと立派な姿だろうか!


 感銘を受けた俺は苦しまぬように魔王を殺すと、遺体を丁寧に埋葬し魔王の娘を側室へ迎えることにした。勇者と魔王の連合国家が成立したわけだ。


「人のみならず魔族まで従えるとなると、王号では足りますまい。皇帝と名乗りなさいませ」


 ルチアの助言に従って、俺は皇帝へ即位することにした。人も魔族も対等に暮らせる帝国を作り上げることが、立派に散った魔王への餞となろう。それに魔族よりよほど腐りきった王国の貴族どものほうに腹が立っていた。あんな奴らが、魔族に偉そうに接することが許せなかったのだ。

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