第3話 任務

 森の奥にひっそりと佇むコンクリートビル。

窓の外には雨がぽたぽたと降っていた。

 「ゆら、依頼入ったから行くぞ。」

ラグナが算数ドリルに夢中になっているゆらに声をかける。隣にはゆらに分からないところを教えているハレイがいる。

 留守番での一件以来、ゆらは勉強にハマっているのだ。

「分かった。今行く。」

ゆらはえんぴつを置いて立ち上がり、用意を始めに自分の部屋へ行った。

「どうだ。ゆらの学習状況は。」

ラグナが聞くとハレイが言った。

「最近初めてにしては吸収が早いな。多分地頭がかなりいいんだろう。ま、それでも同年代の子にはまだまだ劣るけどな。」

「………そうか。」





 コンビニ駐車場に車を止めて、ラグナがスマホで通話をしていた。

スマホ越しにボスの声が聞こえる。

『あー今回の依頼はレーゼがつけた爆弾の処理と後始末だ。』


――レーゼ。日本の混沌を崇拝している組織であり、メルダーとの関わりも浅くはない。

そして………

(月が欠け、バランスの悪くなった日本で、さらに海を潰した張本人。)

8年前の三日月家に続き、5年前、スサノオと契約していた漣家も何者かに潰されていた。


「………分かりました、今行きます。それでは。」

ラグナがスマホを切ると、ゆらに声を掛ける。

「聞いてたか?」

「あぁ。」

聞かなくてもいいとでも言うかのように短く答える。

「爆弾探しは俺の能力が適しているからお前はレーゼの執行人を殺せ。」

「……分かった。」




「……ここらへんでいいか。」

そう呟くと、ゆらはスナイパーライフルを降ろした。

アジトとは比べ物にならないほど高いコンクリートビルの屋上から街を見下ろす。

いつもより人は少ないが、雨のせいで視界が悪い。

スナイパーライフルの先を地面に付け、言う。

「―――……フィールド創造・スナイプ。」

すると、そこを中心に半径4キロの結界が広がっていく。

スコープを除き、神経を研ぎ澄ます。

「ふー………」

―――フィールド創造とは、自分の能力を底上げする技。スナイプや、ソードなど、色々種類がある。スナイプの効果は効果範囲の完全把握と、狙った物への弾道の視覚化である。さらに、スナイプの一番の特徴はそのあまりにも広い範囲である。つまり4キロ以内であれば、"完全精密狙撃"ができる。



「……見つけた。」

全身黒いコートが路地裏へ入っていくのが見えた。黒いコートはレーゼの特徴的な格好だ。

(距離は3.5キロ。)

人差し指が、冷たい引き金に触れる。

呼吸が深く、ゆっくりになる。



―――――刹那、薄暗い雨の中を閃光が走った。

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