第2話 三日月

 月明かりの差し込む廊下をまだ幼い頃のゆらが歩いている。

幼いゆらは途中で驚いたような顔をして、来た道を戻る。

来た道を戻ったところにある扉を開けると、そこには、2つの死体と白いマントの男がいた。

――――カンカンカンカン!!!!

マントの男はゆらに手を伸ばすと………


「カンカンカンカン!!」


―――突然目が覚める。

「朝だぞゆら!!起きろ〜!!」

横を見ると、フライパンとお玉を持ったラグナがいた。

「うるさい、起き………」

「カンカンカンカン!!!」

「起きろ〜!!ゆら!!」

「だから今起き……」

「カンカンカンカン!!!!」

「起き……」

「カンカンカンカン!!!!」

「………。」

………ゆらの頭の中で何かが切れる。




ゆらが一階に降りると、ラウニとハレイがいた。

「おはよう、ゆら。」

「あぁ。」

「そういえばさっきラグナの叫び声が聞こえたけど何やった??」

「あ、それ私も気になってた〜!」

ゆらが眉をひそめ、バツが悪いような顔をして言う。

「…………玉で玉を打った。」

それを聞いて、ラウニとハレイが顔を見合わせ驚いたあと、盛大に笑った。

「ふっ……ははは!!玉で…玉を……あっはははははは!!」

「あっはははは!!しかもそれをあのゆら君が……。」

見かねたゆらが2人に言う。

「…………笑いすぎだ。」

すると階段が軋む音がした。

「ほんとだよお前ら。俺の気持ちをちょっとは考えろよ。」

ラグナが階段を降りながら言った。

キッチンに立ち、コーヒーを入れ直しているハレイが謝る。

「悪い悪い。…いまトースト焼いてるからできたら取ってくれ。コーヒーはブラックでいいな?」

すかさずラウニが、

「私ミルクコーヒーで!」

と注文をする。

「はいはい、わかったよ。ゆらはどうする?」

「……麦茶。」

「………ふふっ。あ、悪い。」

ハレイがこらえきれずに少し笑みを漏らしてしまった。ゆらが睨む。

「そんなに睨むなよ。」

「あっ!そうだそうだ。」

焼けたパンを取り出しながら思い出したようにラグナが言う。

「ハレイがシュークリーム買ってきてくれてたから今日墓行ってくるよ。」

「おーいってら。」

「あ、私たちも依頼きてるから今日はゆら君1人ね。」

すると、3人の視線がゆらに集まる。

「1人で留守番できるか?」

「お手洗いに1人で行ける?」

「勝手に俺らのもの触らないか?」

溜まりに溜まっていたゆらの怒りが限界を超えた。

「毎回毎回やめろー!!!」



「じゃあ行ってくる。」

そう言って、ラグナがアジトを出た。

ハレイとラウニは一足先に任務を遂行しに行っていた。

「………久しぶりだな。」

……やることが何もない。いつもなら筋トレをしていただろうが今は筋肉痛がひどくてできそうにもない。

「…………テレビ。」

……リモコンがない。きっとハレイが持っていったのだろう。

「…………本。」

……無理だ。本のあるハレイの部屋はハレイがいないときは入っては行けないと言われている。

「…………疲れたから風呂でも入るか。」

…………鍵が閉まっている。溺れたら危ないと諭すラグナの顔が目に浮かぶ。

「やること…何もないな。」

一通りの家事はハレイがやっているし、俺の部屋にはベッドとナイフと使い道のないデスクしかない。

「あ……。」

(そういえばラグナが俺のデスクの中に入れてた気がする。)

自分の部屋に行き、デスクを確認する。

(えっと、確かここらへんに………あった。)

「さんすうドリルとかんじれんしゅうちょう。」

その時は嫌がったが……少し………やってみるか。




―――帰路に着いたハレイとラウニが談笑しながら歩いている。

「今回の依頼時間かかったな〜。」

「私たちゆらぐな班とは違って返り血浴びたくないからその分時間かかるのよね〜。」

空は既にオレンジ色に染まっており、淡い三日月が出ている。

「さてさて、私たちのゆら君は元気にお留守番してるかな〜??」

「ってか俺ら娯楽全て使えないようにしたけどあいつどうしたんだろ?」

「まあ帰ったら分かるわよ。ただいま〜。」

「今帰ったぞ〜。」

2人が帰ってきたが、中は誰もいない様で、返事は全く聞こえない。

「あれ、墓から帰ったラグナとどっか行ったのかな。」

「二階じゃない??」

二階へ行ってみると、ゆらの部屋の前にラグナがいた。

「何やってるの?ラグナ。」

ラウニがそうラグナを呼ぶと、ラグナは口に指を当て、静かにするように言った。2人は首を傾げながらラグナの視線の先を見ると思わず笑みがこぼれた。

そこには、さんすうどりるとかんじれんしゅうちょうの前で、ぐっすりと寝ているゆらがいた。

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