第2話 何よそれ、そんなんで本当に痩せるの?

「失礼しまぁす! ホメオ様ァ!」

 鼓膜とみぞおちを揺らすような大声が響き、それに続いて二人の、おそらく使用人が入ってきた。

 手前には、白いシャツを着てサスペンダー付きの長ズボンを履いた、輝くような満面の笑みを浮かべた元気な少年。

 そして後ろには、黒いワンピースに白いエプロンを付けた、人形のような整った顔で鋭い目つきをした少女。

 ビジュアルはさながら、天使と小悪魔といった感じね。

 歳は私よりちょっと下くらいかしら?


 二人の手には、それぞれ赤い色と青の色の板を持っていた。

「どうぞぉおお!!」

 少年が、部屋に入ってくる時と同じくらいの声量で叫んだ。

 そして二人は、手に持っている板を私の前に置いた。


 ホメオが、再び口を開く。

「それをお前に渡しておく。私が使っていたものだ。減量の役に立つだろう」


 来た! チートアイテム来た!

 まったく、いじわるなんだから。さっさと出しなさいよね。顔面はいいのにもったいぶるんじゃないわよ。


「その赤い板、『選別と審判の板<<ニタ オムロニルス>>』に乗ると……」

 私は会議テーブルに身を乗り出した。

 何? この上に5分乗ると、3時間運動した効果があるとか? 

 それとも、もっとダイレクトに体脂肪がバーンと燃えて、一気に痩せられるとか?


「……体の重さを量ることができる」


「体重計やないかい!」

 体重計やないかい! 私はテーブルに突っ伏し、心の中で再び絶叫した。


「そしてもう一つの緑の方、『導きと祝福の板<<アース キーン>>』は、食べ物を乗せるとカロリーが表示される」


「こっちは地味にチートアイテム!?」


「99.9999%正確に解析することが可能だ」


「すごすぎない!?」

 あ◯けんの写真判定なんか、コップの水を日本酒、麦茶をビールとか言い出すくらいの精度だから、結局カロリーを手打ちして登録することになるのよ!?

 何なのよこの寒暖差! ととのうわー。代謝が良くなって痩せそう。


「やることは2つ。『毎日体重を量る』、それと『食べたものの記録を残す』だ」

 ホメオは指を2本立てた。ピースピース。


「それだけ?」

 私は頬杖をついて尋ねた。


「それ以外のことはしてもいいし、しなくてもいい。ただ最低でも、1日1回、できれば朝起きた直後の体重と、腹に入れたすべてのものを記録しろ。それぐらいならできるだろう?」


「何よそれ、そんなんで本当に痩せるの?」

 私は肩をすくめて、首を横にふった。


 ホメオは氷のような表情で私を見下げ、高い鼻からため息を漏らした。

「1週間後に、またここに来る。やるかやらないかは、好きにするがいい。そもそも、どうでもいいことだからな」

 そして、マントを翻し、扉の方へ歩き始めた。


「ちょっ、待ちなさいよ!」


「ハンス、リム、後のことは任せたぞ」

 脇に立つ二人にそう言い放つと、ホメオは会議室の扉を開いた。


「はい、ホメオ様ァ! いってらっしゃいませェ!!」

 ハンスと呼ばれた少年の口から放たれる、部屋中に轟きわたる声。

 それをさえぎるように、部屋の扉は静かに閉じられた。

  

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