第2話 埼玉

塔子は自宅の農地の一角を借りて、野菜作りに励むようになった。

兄と兄のお嫁さんと両親が運営している農地では様々な野菜を育てていた。

野菜作りは思ったよりも大変だった。

気候に左右されるし、力仕事もある。

兄から様々な野菜の育て方を学んだ。

日仏学院に週に一度通おうとしたが、農業はそんなに甘いものではなく、日々農作物との格闘で、都内に行くことなく、すっかり埼玉県民になっていた。

「お兄ちゃん、週に一回は日仏学院に通いたい。」

「塔子。恵から聞いたけれども、振られた元カレを見返すためにフランス語を勉強しているのだったら辞めろ。そんな不純な動機で語学を勉強してもものにならない。どうせならば、実生活に役立つことをやれ。テニスはどうだ?お前、中学の時テニス部だっただろう。テニスをやって、体力つけて、農作物と格闘だ。」

テニスねー。

塔子は考える。

わたしって、本当に芯のない女だ。

フランス語を頑張ると思っていたのに、埼玉に帰ってきて農業やって、習い事に兄の意見でテニスに決める。

それもなんだか悔しい。

しかし、確かに塔子はテニスが好きだった。

走ることよりも、大きなボールを追いかけるバスケやバレーよりも、小さなボールを追いかける卓球よりも。

恵さんを誘って、テニススクールに通おうか。

テニススクールに行って、コーチとでも恋しようか。

生徒さんと出会いがあるかもしれない。

30を前に塔子はいろんなことに焦っていた。

いつまでも、実家で農業を手伝うつもりはなかった。

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