第3話 予感

「塔子さーん!それは軟式打ちですよー!硬式はラケットをぶんぶん振り回しません!」

近藤コーチがまたコートの向こう側から叫んでいる。

コーチに期待したが、大学生のアルバイトだった。

そして、入ったクラスは初級クラスで女ばかり。

ひとり男性がいるが、夫婦で初級クラスに入っている男性だ。

上級コースは男性が激しいラリーを繰り広げている。

どうにかして、上級コースの男性と飲み会を開きたい。

「恵さん、授業が終わったら、一緒に上級コースの男性たちを飲みに誘いませんか?」

「塔子ちゃん、結婚相手ね。塔子ちゃんも29だもんね。焦るわよね。いいわよ」

「片山姉妹!よそ見してないでボール行ってますよー」

塔子は硬式打ちになかなか慣れない。

早くうまくなりたい。

そして、上級コースの男性と仲良くなって、あわよくば付き合いたかった。


「お疲れさまでしたー!」

授業が終わると、恵さんと塔子は上級コースに行こうとコートから出ようとした。

「ちょっと待って!片山姉妹」

近藤コーチと中級コースの永山コーチが寄ってくる。

「今日予定ありますか?」

「予定?」

恵さんが答える。

「あるっていえばあるけれども」

「上級コースでしょう。お目当ては」

近藤コーチがすかさず答える。

「二人で上級コース見ながら、話していて授業上の空だったもんな」

近藤コーチがニヤニヤして笑っている。

「上級コースは全員既婚者ですよ。塔子さん」

永山コーチがニヤニヤして笑っている。

「それよりも僕たちと飲みに行きませんか?」

「え?おばさん捕まえて本気で言ってるの?他に若い子いるじゃない」

塔子は近藤コーチと永山コーチを交互に見て不審に思った。

「僕たち年上の女性と飲んでみたいんですよー。ね、近藤コーチ」

近藤コーチは急に顔を赤らめて何も言わなくなった。

「ねー、近藤コーチ」

永山コーチがまた近藤コーチに言い寄る。

近藤コーチは体を固くして何も言わなくなった。

「うそ・・・」

恵さんがつぶやいた。

何々この雰囲気。

急に微妙な空気が流れた。

「塔子ちゃん、近藤コーチ・・・」

恵さんが口元で話しかけようとすると永山コーチがあおった。

「さあ!行きましょう!行きましょう!」

え!もしかして?これは?まさか大学生にアプローチされてるの?29で?

急な展開に塔子も恵も何も言えず、二人についていくだけだった。

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