第4話 問題になりそうなことは問題になるまで問題じゃない

 大五郎さんの生活は一変した。

 もはや一人ではなくファンタジーさんたちが彼の新たな家族となった。


 毎朝、窓から差し込む納屋と鍬が放つ輝きで目を覚ます。


 ファンタジーっぽいアレが夢ではなかったことを再確認するかのように、大五郎さんは深呼吸をし、今日も新しい一日が始まることを感じた。


「さて、今日は何から始めようか」


 大五郎さんは、早速ファンタジーさんたちを集めた。


 ゴブリンたちは既に畑に集まっており、昨日の作業を続行する準備ができている。妖精たちは材木の収集を終えて、今日は新しい任務を与えられるのを待っていた。


「よし、今日は新しい作物を試してみよう。トマトの苗を植えるぞ。緑のファンタジーくんたち、畑の右側にトマトの苗を植えてくれ。ファンタジーちゃんたちは、水を汲んでくるように頼む。ドラゴンさん、火を使って畑の害虫を焼いてくれ」


 ゴブリンたちは素早く動き始め、トマトの苗を植えていく。妖精たちは川まで飛んでいき、水を運んできた。ドラゴンはその巨大な翼を広げ、魔法の炎で畑の害虫を一掃する。見事なチームワークだった。


 大五郎さんはこの新しい生活に驚きとともに嬉しさを感じていた。


 彼らとともに仕事をすることで、以前よりも畑が豊かになり、大五郎さん自身も生活が充実していく手応えがあった。


 昼食の時間になると、ドラゴンがまた魚を焼いてくれた。


 みんなで囲む昼食は、大五郎さんにとって新たな喜びだった。ゴブリンたちは口々に「マスター、おいしいですね」と喜び合い、妖精たちは楽しそうに語り合って食事を楽しんでいる。


「なあ、ドラゴンさん。あんた料理上手いな」


 ドラゴンは照れくさそうに笑う。


「ありがとうございます、マスター。私は戦闘以外でもこうして役立つことができて嬉しいです」


 食事の後、大五郎さんはふと思い立って、ダンジョンコアの設定を見直してみることにした。


 鍬を握りしめ再びメッセージを呼び出す。


「すまんが、こないだの続きを設定させてくれんか?」


《ダンジョンコア設定用のコンソールを表示します》


 透明な板が表れて光る文字が表示された。


「ふむふむ……テーマと難易度は大自然の初級のままでよし。ファンタジーさんの配置を少し変えてみるといいか。緑のファンタジーくん……そっか本当の名前は『ゴブリン』くんだったな。彼らを畑の守護者にしておこか。小さなファンタジーちゃん……妖精フェアリーちゃんを水と森の守護者に。ドラゴンさんは、料理人兼先祖代々の鍬ダンジョンコア最終防衛担当大臣に任命する。なんや、かっこええな」


 変更内容を口にすると、即座にダンジョン内部からゴゴゴと地鳴りが聞こえてきた。


「なんだ、すごい音だな」


 少し気になって門から階段の下のほうをのぞき込むと、暗かった内部が仄かに明るい。不思議なこともあるもんだなと思いつつも


「まあ、いっか」


……とスルーした。


 問題になりそうなことは問題になるまで問題じゃない、というのが大五郎さんの持論である。それは大問題なのでは?


 大清水大五郎さんが還暦になって会得した世渡りの奥義。

 それに突っ込む人はいなかった。

 

 地表ではゴブリンたちが畑の周囲を守るように働いており、妖精たちは水辺と森の中をびょんびょん飛び回るようになった。ドラゴンは納屋の前に待機しフライパンを背負って大きな鍋で何かを煮込んでいる。


 これなら大五郎さんの山に異変があれば即座に対処できるだろう。


 夕方になると、大五郎さんはファンタジーさんたちと一緒に、今日の作業を確認した。トマトの苗は元気に育ち始め、他の野菜も豊作の兆しを見せている。


「みんなが一日頑張ったおかげだな。今日もみんなで夕食を楽しもう。ドラゴンさん、晩飯は何を作ってくれる?」


 ドラゴンは笑顔で答えた。


「今日は特別に鍋をお楽しみください。山の恵みをふんだんに使った鍋ですよ。」


 全員で食卓を囲むと、大五郎さんは改めてこの新しい生活の素晴らしさを感じた。感謝の気持ちを込めて一口一口を味わった。


 夜が更けると、ファンタジーさんたちはダンジョンの中に戻って静かに過ごす。ドラゴンだけは納屋の中に入ってコアである鍬の横で不寝番である。


「この鍬がなければ、こんな生活はなかったんだろうな。ありがとう」


 大五郎さんはドラゴンが見守る中、鍬の優しくなでる。そして首にかけた手拭でほこりを払った。


 鍬は輝きを失わず、彼の新しい生活を照らし続けているようだ。


 明日もまた、ファンタジーさんたちと共に、畑を豊かにし、大自然と共に生きる日々が待っている。それは大五郎さんにとって、何よりの幸せだった。

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