第2話 ファンタジーっぽい何か


 いつものようにだが、いつもとは違ってギンギラリンに輝く鍬を振るうと、突然地中から巨大な石造りの門が出現した。


 驚いた大五郎さん。


「なんや、こりゃ?」


 見れば、門の向こうには下り階段が続き、まるでファンタジーの世界のような光景が広がっていた。


 こう見えて大五郎さん、結構ファンタジーっぽいものが好きであった。


「ダンジョン? マジか? 地下迷宮? うはあ」と独り言を駄々漏らしして恐る恐る階段を下りていく。


 地下には広大な空間が広がっていた。


 そしてその先に見たことがあるような無いような生き物が待っていた。


 ぎょっとして立ち止まり、身構える大五郎さん。


 妖精、ゴブリン、ドラゴン。


「おおぅ……ファンタジーさん達や……」


 とりあえず驚きの声を漏らす大五郎さんであった。


 ファンタジーさん。

 大五郎さんが勝手にそう呼んでいるファンタジー世界の住人たちのことだ。


 他にオーガとかスライムとかゴーレムとか無数にいるが、大五郎さんは大体どれもファンタジーさんで済ませている。


 そのファンタジーさんが三十人くらい整列して跪いているのである。

 全員が大五郎に頭を下げている。


「マスター、ダンジョンの設置成功オメデトウございます。われら全身全霊をもってお仕えします」


 一番後ろで無駄にでかいドラゴンが頭を垂れながら流暢な日本語で大五郎さんに話しかける。


「え、え? 俺がマスター!? ダンジョンの? ここが? ほんとに?」と混乱する大五郎さん。


 だが、すぐに不思議な力でこのダンジョンとつながっている感覚に胸が熱くなるのを感じた。するとあら不思議、落ち着きを取り戻す大五郎さん。


 どうやらダンジョンマスターに就任したようだ。

 おめでとう、大五郎さん。


「マスター、早速ですがマスターのことはこのままマスターとお呼びすれば?」


「ええよええよ、マスターでもウスターでもええからな。それより君たち、手ぇ空いとるか?」


「もちろんですとも。ただまず先にマスターにはダンジョンコアの設定とダンジョン運営について一通りの説明とさせていただき……」


「あー、そういう話は後や。後にしよか、うんうん。今日中に畑やらんと午後キツなるからな。ほら、そこのファンタジーくんら、畑の雑草取り頼むわ。外出てすぐ右側の畑やで。十五人もおったら半日で終わるやろ」


 大五郎さんはゴブリンたちをダンジョンの外に追い出して畑仕事をするように指示した。


「残りの五人は反対側の畑耕してや。草取り組終わったら合流して耕すんやで。野菜植えて、ワイらの食料を豊かにする大事な準備やぞ」と大五郎さん。


 ゴブリンたちが慌てて作業を始めた。


 次に「そっちのファンタジーちゃんら、枯れ木とかの材木集めてくれるか? 冬越すにはいくらあっても足りんくらいやからな」と妖精たちに指示する。


 それを聞いていたゴブリンたちが混乱する。

 彼らはあまり頭がよくない。自分たちへの指示だと勘違いして畑作業の途中で木を切りに行き始めるものがいた。


 それを見ていながら、さらに指示を出す大五郎さん。


「川魚、捕ってきてくれへん? 今夜は魚食いたいねん」と言うと、森に向かって木を取りに行こうとしていた妖精たちが慌てて川へ向かおうとする。


「待て、役割分担だ。ゴブリンたちは畑仕事を続けよ。妖精たちよ、枯れ木の採集をせよ。魚は我が漁ってこようぞ」とドラゴンが呆れながら混乱しかけた仲間に指示を出した。


 よかった。

 不安の多い者どもばかりかと思いきや、ドラゴンがまともであった。


 あやうく畑を作るべきゴブリンが材木を切り、材木を集めるべき妖精が魚とりに行き、元の畑はだれが耕すんだという、まるでコメディのような大混乱が起こりかけていたがなんとか収拾がついたようだ。


 大五郎自身もその様子を見て、「ええ感じで働いとるやんか。ワイの指示でみんな動くんて、なんやええ気分やな。たいしたもんやで、わし」と自画自賛し、しかし内心では混乱しかけたファンタジーさんの様子を面白がってもいた。


 その日は畑仕事は半分終わり、材木は一部だけ集まり、魚はそれなりに捕れたが、どれもまだ終わったわけではない。続きは明日にしようと日暮れとともに全員ダンジョンに引き上げていった。


 これが大五郎のダンジョンの始まりの日だった。


 モンスターたちは戸惑いながらも、この新しいマスターの下で何とか生活をスタートさせたのであった。

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