第18話 新たな道標
颯太は静かな朝の光に包まれながら、ゆっくりと目を覚ました。心地よい温かさが肌に伝わり、どこか安らぎを感じる。その一日が、彼にとって新たな始まりを意味していることを、彼はもう知っていた。
震災以来、颯太の中で大きな変化が起きていた。それは、理性と感情のバランスを見つけたこと。そして、それが彼を、他者に寄り添う存在へと変えていった。
これまで颯太は、感情を理性で抑え込むことが最も効果的だと信じていた。怒り、悲しみ、恐れ、そうした感情は無駄であり、理性的に対処することこそが正しい方法だと。だが、凛や拓海、弓子との経験を通じて、颯太はその考え方を少しずつ変えていった。
感情は決して無駄なものではない。むしろ、感情は人が生きる力そのものであり、抑圧することなく、受け入れることで人は成長するのだと、彼は理解するようになった。理性だけではなく、感情を大切にし、バランスを取ることで、初めて本当の意味で自分自身を知り、他者との関わりを深めることができる。
颯太はそのバランスを見つけることで、過去の傷を癒し、新たな力を手に入れた。そして、その力をどのように使うかが、彼にとって最も重要な課題となった。
颯太が感じた変化は、自己中心的な思考から他者を思いやる心へとシフトしたことだった。理性と感情のバランスを取った結果、彼は他人の苦しみや喜びに寄り添うことができるようになった。
ある日、颯太は近所のカフェで偶然、若い女性と出会った。彼女は心に深い傷を抱えており、家族や友人との関係に悩んでいた。颯太は自分の経験を話し、彼女に言葉をかけることで、少しずつ彼女の心を軽くしていった。
「過去に傷ついても、それを背負って生きることができるんだよ。」颯太はそう言い、微笑んだ。彼の言葉は、理性的なものと感情的なものが融合した、優しさに満ちたものであった。
彼女は颯太の言葉に励まされ、少しずつ自分を取り戻していった。そして、颯太もまた、その瞬間に自分の成長を感じ取ることができた。人は、他者と触れ合い、支え合うことでこそ成長できるということを、彼は実感していた。
颯太の心は、今や安定していた。過去の傷や痛みは完全に癒えたわけではないが、それを受け入れ、今を生きる力へと変えていた。彼は、他者との関わりの中で、感情と理性のバランスを保ちながら、周りの人々に寄り添うことができるようになった。
凛が言ったように、信じる力は他者と共に育てるものであり、それは一人では完結しないものだ。そして、信じる力は他者に与えるものでもあり、それを通じて自分自身も癒され、成長する。
颯太はその教訓を胸に、これからも歩んでいく決意を新たにした。彼の道は、もう一人の人間として、他者を支える存在となることが使命であり、新たな道標となるのだと確信していた。
心の中で何かが確実に変わった。颯太は、自分自身を支える力を手に入れ、他者に寄り添う力を育んだ。それは、彼が歩むべき道の真ん中で、確かな明かりとなっていた。
颯太は静かに、次の一歩を踏み出す準備をした。彼の足元には、もう迷いはなかった。
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