第19話 灯火を繋ぐ

 颯太の心の中には、今や一つの確かな灯火が灯っていた。それは、過去の痛みや絶望を乗り越えた先に見つけた、希望と信じる力の象徴だった。この灯火は、自分自身を照らすだけではなく、周囲の人々をも温め、導く力を持っていた。


 今、颯太の目の前には、次世代にその灯火を繋げるという新たな挑戦が待っていた。




 震災後、颯太は町でボランティア活動を続ける中で、子どもたちと触れ合うことが多くなった。彼らは、まだ自分の足で立ち、未来に向かって歩み始めたばかりの存在だ。しかし、彼らの心の中にも、不安や恐れ、希望の欠片が散らばっていることを、颯太は痛いほど感じていた。


 「未来って、怖いと思う?」颯太はある日、地元の小学校で授業を行いながら、子どもたちに問いかけた。子どもたちの目は、少し驚きながらも真剣だった。


 「うん、怖いよ。何が起こるか分からないから。」と、ある少年が答えた。


 颯太はその答えを受け入れ、静かに語りかける。


 「未来に何が待っているかは分からない。でも、どんな時でも『信じる力』を持っていれば、どんな暗闇も乗り越えられるんだよ。」颯太はその言葉を続ける。「信じる力っていうのは、自分自身を信じる力でもあるし、周りの人を信じる力でもある。だから、あなたたちもその力を持っているんだよ。」


 颯太は、子どもたちの目の前でその灯火を繋げていこうと決意した。次世代に、彼が信じる力を伝えることこそが、これからの社会を作るために最も大切なことだと感じていた。




 颯太はその後、地元のコミュニティセンターや学校で講演やワークショップを開くようになった。彼のメッセージは、「信じる力」をテーマにしたもので、理性と感情をうまくバランスさせる方法を学ぶことが中心だった。それは、感情に振り回されず、しかし感情を無視することなく、他者と共に生きる力を育むためのものだった。


 「感情は、私たちが生きる力を与えてくれる大切な部分です。でも、感情だけに振り回されないようにするには、理性も大事なんです。」颯太は、参加者たちに向かって真剣に話した。「理性は私たちを冷静に保ってくれるけれど、感情は私たちに力をくれる。それをどう組み合わせるかが、人生を歩む上で大切なことなんです。」


 講座の中で颯太は、感情を否定せず、むしろそれを尊重することの重要性を伝えた。自分の感情を無視したり、抑えつけたりするのではなく、それを受け入れ、理解し、上手に活用することで、他者とのつながりをより深めることができるということを教えていた。


 颯太はその活動を続けながら、自分が過去に得た信じる力を、少しずつ他者に伝え始めていた。それは単なる教えではなく、自らが歩んできた道の中で得た確かな実感に基づいた言葉だった。彼は自分の体験から学んだことを、次世代に伝えることこそが、自分の役割だと心から感じていた。




 颯太の活動は、次第に広がりを見せた。彼が語る「信じる力」を求める人々が増え、彼の周りにはそれを受け入れ、共感する仲間たちが集まってきた。次世代に向けたメッセージは、少しずつ社会全体に浸透していった。


 ある日、颯太は以前に教えた子どもたちから手紙を受け取った。手紙には、こう書かれていた。


 「颯太さん、僕たちも信じる力を信じて生きていくよ。辛いことがあっても、僕たちもそれを乗り越えられるって信じてる。」


 颯太はその手紙を読んだとき、心の中で小さな涙がこぼれそうになった。それは、彼が繋げてきた灯火が確かに次の世代に引き継がれ、また新たな希望を育てていくことを実感した瞬間だった。




 颯太はこれからも、信じる力を育む活動を続けていくと決意した。彼は自分の中で灯した希望の光を、他者に伝え、共に歩んでいく力を育て続けることができる。


 信じる力は、ただの言葉ではなく、実際に行動に移し、他者に力を与える力を持つ。颯太はその力を持つ灯火として、これからも歩み続ける。次の世代に、そしてその先に繋がる灯火を照らし続けるために。


 颯太の足元には、これからも光り輝く道が続いている。

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