第16話 選択の時
颯太が見つめる最初の道は、理性に基づいた道だった。自分が学び、経験したすべての知識と計算、論理的な思考を頼りに歩む道。過去の出来事から得た教訓をもとに、冷静に状況を分析し、最も効率的で最も確実な方法を選ぶべきだという考え方だ。理性だけで物事を進めれば、失敗を避けることができるはずだ。何より、心を乱されずに済む。感情に振り回されることなく、冷徹に判断を下せば、無駄なリスクを取らずに済む。
しかし、この道を選ぶことで、颯太は他者との絆を犠牲にし、孤立してしまう恐れがあった。感情や人間関係を軽視することで、真の意味で他者とのつながりを深めることができなくなる。孤独という暗い影が彼に迫っていた。
もう一つの道は、感情に従う道だった。理性を超えて、自分の感情や直感を信じて進むという選択だ。過去の絶望的な状況を乗り越えたことで、颯太は自分の感情を大切にすることを学んだ。感情は決して無駄なものではない。むしろ、感情があるからこそ、人々は絆を深め、助け合い、支え合うことができるのだと気づいた。感情を大切にし、自分の本能に従うことが、時には最も重要な選択肢であると感じることもあった。
だが、感情だけに頼ることは危険だった。感情は時に暴走し、理性を失わせることがある。感情に流されすぎると、無謀な行動を取ってしまうかもしれない。後悔しないように、しっかりと自分の感情を見つめ直す必要があると、颯太は思った。
そして、最後に彼が見つめるのは「信じる力」の道だった。信じる力は、ただの理性や感情の二項対立を超越した、何かそれ自体が力強く生きる力となり得るものだと感じることができた。凛が言っていたように、信じる力は自分だけでなく、周囲の人々とのつながりを築く力であり、互いに支え合うことで強くなれる力である。
だが、信じる力を選ぶということは、それに従って生きる覚悟を決めることでもあった。それは単なる希望や願望ではなく、困難を乗り越えるための強い意志と決断を持ち続けなければならない力だった。信じる力を選べば、自分が信じた道を共に歩んでくれる仲間たちがいるという確信を持つことができる。しかし、その確信が裏切られるとき、どれだけ深く傷つくかもまた知っていた。
颯太は静かに目を閉じ、深く息を吸った。彼の心の中では、理性、感情、そして信じる力の間で揺れる葛藤が渦巻いていた。どれを選ぶべきか、正しい答えはわからない。それぞれにメリットとデメリットがあり、どんな選択をしても必ず何かを失うだろうと感じていた。
だが、そこで気づいた。選択とは、何もかもを選び取ることではなく、何かを捨てる覚悟を持つことだということ。理性を捨てるわけではなく、感情を無視するわけでもなく、それぞれをバランスよく選び取ることで、自分の進むべき道を見つけることができるのだと。
そして、颯太は心を決めた。彼は信じる力を選ぶことにした。それは理性と感情を統合する力であり、過去の自分を超えるために最も必要な選択だと信じたからだ。
「俺は信じる力を選ぶ。」颯太は、静かに、しかし確かな声で言った。その言葉に、彼自身が力強く後押しされるのを感じた。
颯太はその選択によって、自分の道を切り開くことを決意した。理性と感情、信じる力が交わる場所で、彼は自分を取り戻し、成長していくと確信した。信じる力を持つことで、彼は一人ではなく、仲間たちと共に前に進むことができる。そしてその力こそが、これからの人生における最大の武器となるだろう。
颯太は一歩踏み出した。彼の目の前に広がる未来は、確かに不確実で恐ろしいものかもしれない。しかし、信じる力を胸に、颯太はその未来を迎え撃つ準備ができていた。
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