第15話 絶望の再来

 颯太たちの生活が少しずつ落ち着きを取り戻し、心の中に希望の光が差し込んでいた。街の復興も進み、人々は少しずつではあるが、日常を取り戻していた。しかし、平穏な日々は長く続くことはなかった。再び、颯太たちは未知の困難に直面することになる。




 ある晩、颯太はふとしたことで不安を感じていた。何かが変わりつつある、そんな気配を感じていた。しかし、その原因を明確に突き止めることはできなかった。街の復興が進み、あらゆる面で前進しているはずなのに、颯太はなぜか心の中に不安の種が芽生えていた。


 その予感が現実のものとなったのは、翌朝だった。街に突然、規模の大きな停電が発生し、数時間にわたって人々の生活が一時的に遮断されるという事態が起きた。通信が途絶え、電気が使えない状況が続く中で、街は再び混乱を始めた。




 停電から数時間後、颯太たちは街の広場に集まり、状況を確認し合っていた。凛は冷静に指示を出し、周囲の人々を落ち着かせることに尽力していたが、颯太の心には次第に不安が広がっていった。彼は、再び同じような絶望に直面することを恐れていた。


 「こんなことがまた起こるなんて…」颯太は心の中で呟いた。前回の震災で感じた無力感、家族を失った絶望が、再び押し寄せてくるような感覚に囚われていた。


 「颯太、冷静になって。私たちが信じる力を持っているのは、こんな時こそなんだから。」凛が颯太の肩に手を置き、静かに言った。


 彼女の言葉には、確かに力強さがあった。しかし、颯太は心の奥底で、それでも不安を感じずにはいられなかった。信じる力とは、ただ単にポジティブな思いだけではない。真の力とは、困難に立ち向かうための強さと覚悟を持つことだと、颯太は徐々に理解していた。それでも、彼の中でその力がまだ完全には芽生えていないことを痛感していた。




 停電が続く中、食料や水が足りなくなり、街の中で混乱が深刻化していった。人々の顔には焦りと恐怖が浮かび、絶望的な空気が広がっていった。その時、颯太の中で再びあの「孤独感」が蘇ってきた。どんなに周りに人がいても、結局は自分一人でその状況を乗り越えなければならないという感覚が、彼の心に強く残った。


 「また一人ぼっちになった気がする…」颯太は心の中で呟いた。あの震災の日のように、何もかもが崩れ去り、再び絶望に飲み込まれるのではないかという恐怖が、彼を支配し始めた。


 「颯太、大丈夫。君は一人じゃない。」凛が颯太に声をかける。彼女の目には確固たる信念が宿っていた。しかし、その言葉に颯太は反発するように感じていた。彼はどうしても、自分の中で解決できない問題があることを認めたくなかった。




 颯太は夜が更けるにつれて、ますます不安に駆られた。人々の叫び声や、慌ただしい足音が耳に響く中で、彼はふと足を止め、深く息をついた。自分が今、どこに立っているのかを考える。その時、凛がそっと近づいてきた。


 「颯太、私たちが一緒にいれば、どんな困難も乗り越えられる。」凛は優しく言った。「信じる力は、決して一人では持てないものよ。君が信じてくれることが、私を強くしてくれる。」


 凛の言葉に、颯太は少しずつ心を開き始めた。過去の自分は、何もかもを一人で背負おうとしていた。しかし、信じる力とは、他者と共に支え合い、助け合うことで育まれるものだと、彼は今、痛いほどに実感していた。


 そして、颯太はその瞬間、自分を見つめ直した。絶望が再び訪れたからこそ、信じる力の本当の意味がわかったのだと。今こそ、過去の自分を超えて、真の強さを手に入れる時が来たのだと、心の中で決意した。




 颯太は再び、仲間たちの元に戻り、共に立ち向かう覚悟を決めた。「絶望は確かに辛い。でも、私たちはそれを乗り越えられる。」彼は凛に向かって、しっかりとした声で言った。


 凛は微笑み、颯太を励ました。「その通り。君がそう思えるなら、もう怖くない。」


 颯太はその言葉を胸に、仲間たちと共に新たな試練に立ち向かうため、歩みを進めた。再び訪れた困難は、確かに大きな壁であった。しかし、信じる力を持って、それを乗り越えられると信じていた。

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