第14話 凛の秘密
颯太が徐々に自分を取り戻し、信じる力を身につけ始めた頃、彼の前にもう一つの試練が待っていた。それは、彼がこれまで信じてきた「凛」という存在についての深い疑問であった。凛は、颯太にとっては頼もしい仲間であり、彼の心の支えだった。しかし、その凛が抱えている秘密には、颯太が知る由もなかった。
ある日、颯太は凛と共に街の外れにある小さな公園で、ふとした会話の中で彼女の目に一瞬、暗い影が差すのを感じた。その瞬間、彼は思わずその違和感を覚えたが、凛はすぐにいつも通りの微笑みを浮かべて、何事もなかったかのように話を続けた。しかし、颯太はその沈黙が気になり、何かを感じ取らずにはいられなかった。
「凛、何か気になることがあるのか?」と、思わず尋ねてしまう。
凛は一瞬、言葉を詰まらせた。彼女はいつも強い意志を持ち、他人にはその弱さを見せなかった。しかし、この時、颯太は彼女の内面に深く潜む痛みのようなものを感じ取った。
その日からしばらくして、颯太は凛と一緒に過ごす時間が増えた。だんだんと彼女のことを知りたいという気持ちが強くなり、彼は少しずつ凛に迫っていった。凛は最初、彼の問いかけに対して避けるように答え、過去のことには触れないようにしていた。しかし、颯太が何度も真摯に向き合い続けた結果、ついに凛はその秘密を語り始めた。
「私が信じる力をあなたに教えた理由…それは、私自身がそれに頼ってきたから。」凛は静かな声で語り始めた。
「私も、かつてはどん底にいた。家族を失い、全てを失ったと感じていた時期があった。私はその時、何もかもが崩れていくように思えて、どこにも居場所がなかった。その中で、唯一支えになったのが、信じる力だった。」
凛は少し涙を浮かべながら続けた。
「それでも、信じる力だけでは全てを救えなかった。私も間違っていたことがある。自分が信じる力に依存しすぎて、他の大切なものを見失ってしまった。」
凛の言葉に、颯太は驚きと共に深い共感を覚えた。彼女がどれだけ強く見えたとしても、その心の中には多くの痛みが刻まれていたことを知った。彼女が抱える過去が、彼女の今の強さに繋がっていたのだと、颯太はようやく理解した。
凛は、信じる力を他者に伝え続けてきた。しかし、その力が持つ両面を知らずに伝えることは、時に他人を傷つけることにも繋がるということを、彼女は痛感していた。自分自身が信じることで乗り越えたものが、他者にとっては負担になってしまうことがあるという事実を、彼女は長い時間かけて学んできた。
「信じる力は大切。でも、それだけじゃ不完全なの。私はそのことを後悔している。」凛は言葉を絞り出すように語った。
颯太は静かにその言葉を受け止め、彼女の気持ちに寄り添おうとした。これまでの凛の強さは、彼女が過去に多くの傷を負い、それを乗り越えようと必死で戦ってきた証だった。それは、他人に依存することなく、自己の力で立ち上がろうとする強い意志の表れであった。しかし、その中で彼女は誰かに頼ることの大切さや、助け合いの重要性を忘れていたこともあった。
「でも、今は違う。」凛は、颯太を見つめながら言った。「今は、あなたたちと共に歩んでいくことが私の力になっている。過去を乗り越えるために、私一人じゃなく、みんなで支え合いながら歩んでいけることが、私にとっての救いなの。」
颯太はその言葉に深く感動した。凛は自分一人で背負い続けることをやめ、他者との絆を大切にし、共に歩むことを選んだのだ。そしてその選択が、彼女の新たな力の源となったのだろう。
颯太は、凛の過去と彼女が信じる力の本当の意味を知ることで、彼女に対する尊敬の念がさらに強まった。彼は、これからも凛と共に歩んでいくことを誓った。そして、彼女がどんなに過去の傷を抱えていても、その過去が彼女を強く、優しくしたことを理解した。
「ありがとう、凛。」颯太は心から言った。「君が信じてきたもの、それを僕も信じるよ。」
凛は微笑み、颯太に軽く頷いた。その笑顔には、彼女がこれまで背負ってきたもの、そして今新たに選んだ道への希望が溢れていた。
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