第2話 崩壊する論理
街の惨状が目の前に広がる中、颯太の心は混乱の渦に飲み込まれていた。
郊外に向かう途中で見た家々の崩壊、燃え盛る車、路上で泣き叫ぶ人々。その一つ一つが、これまでの彼の常識を崩壊させていく。
「なんで…こんなことに…」
口をついて出た言葉は、自分自身への問いでもあり、目の前の現実への抗議でもあった。
家族は無事だろうか?
その疑問が頭を支配するたび、胸が締めつけられるような痛みが走る。
颯太は必死に歩を進めた。道が瓦礫でふさがれている箇所では、崩れた建物の隙間をかき分けて進んだ。途中で足を滑らせ、膝を打ったが、それに構う余裕はなかった。
理性的に、計画的に。冷静になれ。
自分にそう言い聞かせるが、感情の波がそれを飲み込む。これまでの人生では、理性で全てを乗り越えてきたはずだった。学校では常にトップの成績を維持し、職場では効率的な働き方で信頼を得た。そんな彼の誇りが、今、この災害の前で無力さを露呈している。
「どうして、こんな時に冷静になれないんだ…!」
自分を責めるような独り言が、荒れた街の静けさに虚しく響いた。
郊外に向かう途中、颯太は大きな公園の横を通りかかった。その時、どこからか子どもの泣き声が聞こえた。
「お母さん!お母さん、どこにいるの?」
目を凝らすと、瓦礫の中で幼い女の子が座り込んでいた。服は泥だらけで、顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。
「大丈夫か?」
颯太は駆け寄り、女の子の肩に手を置いた。
「お母さんが、崩れた建物の中に…助けて…!」
颯太の胸の奥に、不安が一気に押し寄せる。自分の家族も無事かどうかわからないのに、ここで立ち止まるべきか?
だが、女の子の涙に押されるように、彼は決断した。
「わかった。待っていろ。」
瓦礫をかき分け、崩れた建物の中を探し始める。崩壊の恐れがある中で、冷静に状況を分析しようとするが、感情の重さが身体を鈍らせる。
「くそっ…!」
手のひらは血だらけになり、砂埃で喉が痛む。それでも、微かな声を頼りに探し続けた。そして、瓦礫の隙間で意識を失った女性を見つけた。
「大丈夫か…!」
なんとか女性を引き出し、女の子の元へ連れて行った時、彼の胸に小さな達成感が生まれた。しかし、それは一瞬のことだった。
「助けられたのに…家族はどうなんだ?」
再び襲い来る焦燥感。助けた命がある一方で、自分の大切な人がどうなっているかはわからない。
郊外の自宅にたどり着いた時、颯太はその場に崩れ落ちた。
そこには、かつての家の面影はなかった。瓦礫と化した自宅、その上を漂う埃と煙。
「嘘だろ…」
家族の姿はどこにも見当たらない。崩壊した家の中にいるのか、それともすでに避難したのか。わからないまま、颯太は泣きながら瓦礫をかき分けた。
「母さん…!父さん…!」
声が枯れるほど叫んだが、返事はない。無力感に襲われた彼は、その場に膝をつき、空を見上げた。
自分の手で守りたいものを守れなかった。論理的な計画も、冷静な判断も、この圧倒的な力の前では無力だった。
「俺に…何ができるんだ…」
その問いに答えられる者は誰もいない。ただ、涙が静かに地面に落ちる音だけが響いていた。
この瞬間、颯太の中で何かが崩れた。
それは、彼が信じてきた「理性こそ全てを解決する」という信念だった。
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