第2話 再生する世界
高度な魔法文明が滅んでから数十年。
この頃、人間と呼ばれていた長耳族。
後にエルフと呼ばれる事になる種族は、残った研究施設にて自らの種族の弱点の一つである繁殖力を高めた新たな種族の開発に着手していた。
連綿と続いてきた長耳族の歴史は自らの種族を改良し、寿命を伸ばし、世界に満ちる魔力と呼ばれるエネルギーとの親和性を高めてきたが、代わりに繁殖力を貶めていた。
故に研究者たちは長い寿命、高い魔力との親和性を保ったまま、繁殖力を高めた新たな長耳族を創ろうとしていた。
「まあ。無理な話よな」
生まれた場所。
とある古城の崩れた玉座に座り、千里眼にて研究を眺めていたクラティアは、呆れたようにため息を吐き、長耳族の研究者たちをあざ笑う。
そんなクラティアが言う通り。
千年を生きる長耳族が創り出した新たな人類の寿命は、長く生きても百年ほど。
魔力との親和性は個々別々。
さらに、長耳族の象徴たる長い耳は極端に短くなってしまっていた。
しかし、繁殖力に関しては研究の甲斐あって、体がある程度育てば子を成せるほどで、研究者の予想を超えてその数を指数関数的に増やしていく。
「ああ。これは、やってしまったなあ。長耳族は」
古城にクラティアのせせら笑う声が響いた。
たった百年の寿命しか持たないはずの新たな人類。
短耳族はその数を爆発的に増やし、千年も経つ頃には遂に長耳族の総人口を超えることになった。
そして、この頃から長耳族と短耳族が対立。
一つの土地や食料、資源を取り合って、喧嘩が起こり、小競り合いが増え、そして遂には戦争が勃発してしまう。
「まあ。そうなるか。やれやれ、では、仕事といこうかのう」
千里眼を解除して、クラティアは玉座から立ち上がると、苔とツタだらけの古城から飛び立ち、長耳族と短耳族が戦争をしている大陸へと向かっていった。
赤黒いドレス身に纏い、悪魔のような翼を広げ、クラティアは二種族が睨み合う荒野の上空に姿を晒す。
「初めましてね。妾はクラティア。クラティア・クリスタロス。貴様らの悪意や殺意、絶望から生まれた原初の吸血鬼である(まあ。嘘なんじゃが)」
魔法でその場に集まる軍人たち数十万人に声を届け、クラティアは天に手をかざすと、その手に魔力を集め、圧縮していった。
魔法に長けた長耳族から見てみれば、その魔力は今にも噴火しそうな火山その物で、短耳族からしてみれば得体の知れない化け物の誕生に見え、その光景に祈る者、絶望感から脱力して地に膝をつく者、恐怖で気を失う者などが続出する。
「二度目の滅亡だ。次は、仲良くすることだな」
そう言って、クラティアはその手の魔力を地上に向かって、水の一雫を垂らすように落とした。
そして、圧縮された魔力の一雫は地表に触れると、クラティアが見える範囲を
この一撃で両種族の軍人のみならず周辺諸国は衝撃波や津波で壊滅。
後の歴史には空から大岩が落ちてきたことで、この事件が起こったなどと推測されることになる。
そこから月日は流れて一万年。
遂に、高度な魔法文明の痕跡であるビル群は土や砂。
森や水に飲み込まれて姿を消し始めた。
「存外消えんもんよなあ。面倒な。埋めるか」
高度魔法文明の遺産を魔法で分解したり、土や岩で埋める一方で、クラティアは再び繁栄を始めた短耳族の様子を新たな棲家とした廃墟に置かれていたソファに寝そべって、千里眼を使い、眺めていた。
この頃になると長耳族より短耳族の総人口が著しく増加し、短耳族は自らを人間と名乗り、長耳族はエルフを名乗り始める。
二つの種族は完全に別れ、生活圏にも変化が現れ始めた。
短耳族、人間たちは平野に村落や町を作って暮らし、エルフたちは森や山で自然と調和を保って暮らすようになったのだ。
千年前に現れた魔王の言葉に怯え、教訓として、エルフたちは文明を手放し、人間と争わないようにしたらしい。
しかし、今度は人間が、エルフ族以外の亜人種、獣人種たちと言語や見た目、価値観の差を原因に小さな
「なんじゃこの種族は。争いが好きなのか? 言葉が通じない恐怖。見た目が違う恐怖。怖がりな種族だのう。ふ〜む……寿命の短さが一つの原因か? ああそうか、長耳族たちには無かった生命活動への渇望がそうさせるのか。生存本能とでも言えば良いのかのお。死ぬのが怖い、ということか。恐怖を乗り越えるためには戦わねばならんというのは分かる感情だが。ちと、度が過ぎたな」
ソファに寝そべっていたクラティアが呆れ、崩れそうな天井を仰ぎ、肩をすくめて立ち上がった。
新たな文明が生まれて一万年。
クラティアは再び棲家を発つ。
再び文明を滅ぼし、新たな文明を創り上げ、作り変え、世界を新たなステージへ、神の座に近付けるために。
それが、父である上位存在の願い。
いずれ来る、別の世界との接触。
多次元宇宙の生命との恒久的な平和と、それが叶わなかった際の防衛力の捻出。
これを成すために、クラティアは今一度「お前ら仲良くせい」と文明を滅ぼすのだった。
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