第9話

 道子は原口かおるの話を聞きながら、行方不明の母親は、あの老女に間違いないと確信したのである。

 かおるは

「先輩、怖い話でしょう⁉」と道子の顔を見つめていた。

 道子は、真っ青になっている自分の顔を自覚したのだった。店内では、閉店の【蛍の光】の曲が流れていた。ケ-キの箱をかおるから受け取って、道子は店を出た。うしろから「毎度、ありがとうございます」と、かおるが元気な声で見送って呉れた。

 道子は、翌日の昼食時に、市場の食堂で、二日前の新聞を調べて見た。西日本新聞であった。そして、地域版の下の方に、【夫婦が首つり自殺】という見出しを発見したのである。

 記事によると、昨年(平成25年)の6月5日(土曜日)に、認知症の母親の介護に疲れた息子夫婦が、母親に大量の精神安定剤を飲ませて、眠らせて、真夜中に近くの県道(宗像直方線)に遺棄した。母親の生死、行方は一年以上経っても不明で発見されていない。夫婦は罪の意識にさいなまれて、首つり自殺をした。母親の行方は未だに不明であるとなっていた。

 道子は、夫婦の実名を見て、驚愕きょうがくしたのだった。

 夫が山田五郎、妻が妙子。母親は山田マツコとなっていたのだった。あの、親切な夫婦ではないか!でも、母親のことは話さなかった。家族は五人で、息子家族が大阪へ転勤になったので、今は、夫婦二人切りと言ったではないか!それは嘘だったのだ。あの時は、既に母親は居なかったのだ。遺棄した後だったのである。

 道子は想像したのである。山田夫婦は、毎日散歩にかこつけて出かけて、あの道を通る車を観察していたに違いない。上り、下りの車を⁉それほど、交通量の多い道ではない。母親を遺棄したのが、真夜中であれば、朝早く通る車であろうと推測した。そうなると、宗像方面に走る車よりも、北九州方面に向かう車の方が圧倒的に多い。

 夜中の二時ごろから朝の八時ころまでに通る車をチエックすれば、目的を達せられると判断したのであろう。遺棄した日から、どれだけの車をチエックしたかは解らないが、二か月以上は実施しただろう。そして、夫婦は、遺棄した翌日に、橋の袂で石にぶつけて、ヘッドライトを破損した道子の車を思い出したに違いない。

 しかし、夫婦にとって不可解だったのは、道子が菓子折りを持って来た時の様子だった。遺棄した母親に遭遇した様な気配は、全く感じなかったのである。ただ、単純に、破損したガラス片を片付けて貰った親切に対して、お礼に来ただけであったとしか思えなかったのである。それはそうであろう。道子にとっては、それが真実だったのだから。

 夫婦は道子が、何かを知っているのではと思っていたかも知れないが、断定は出来なかった。それで、気軽に遊びに来ることを誘ったのかも。でも、道子は二度と夫婦の家には訪れなかった。そのために、彼等夫婦には、それ以上何も為すべきすべはなかったのである。

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