第8話

 息子の正一は、宗像工業高校を卒業して、念願のトミタ自動車に就職することが出来た。工場は宮若市みやわかしにあったので、自宅から通勤することが出来た。将来的にはアパ-トを借りて、一人で住みたいと言っている。道子は結婚するまでは、自宅から通勤して、お金を貯めてから、結婚して、家を出なさいと言っているのだった。でも、本人は早く一人暮らしがしたい様であった。

 道子の母の咲子も今年七十八歳になって、毎日の家事は、きつそうだった。道子は

「お母さん。できるだけ私がやるから、のんびりしていていいよ」と言っても

「二人が一生懸命に働いているのに、私だけ楽が出来るかね」と言って頑張ってくれるのだった。漁師の嫁だったので、根っからの働き者だったのである。


 から一年半が経った十二月のクリスマスイブの日だった。道子はクリスマスケ-キを買って帰るために、直方のおがたのイオンモールの中にある馴染みのケーキ屋に立ち寄ったのである。毎年、この店に予約していたのだった。この日も予約のケ-キを受け取りにいったのである。

 そこで、店長の原口が道子に声を掛けてきたのである。ふたりは、三年来の友人だった。原口かおるは、宗像高校の一年後輩でもあった。高校生の時は、面識も無く、話したことも無かったのだが、宗像の市民図書館のユリックスで、本を探していた時に、いきなり話し掛けられたのだった。

「バレーボール部の加藤さんですよね?」道子の旧姓は加藤だった。道子は女子バレーボール部のフロントレフトで、強烈なスパイクが有名だった。花形スパイカーだったのである。三年生の時はキャプテンでもあった。

「はい、そうです。あなたは?」

「わたしも、宗高出身なんです。高校のときは加藤さんが憧れでした」と喋り出したのである。なかなか饒舌じょうぜつな女であった。それ以来の付き合いである。

 かおるの自宅は自由ケ丘四丁目だった。旦那は宗像市役所に勤めていると云っていた。原口かおるは噂話うわさばなしが好きだった。店の中の喫茶室に道子を案内して、テーブルに紅茶を持ってきた。そして、飲みながら声を抑えて話し出したのである。店内はそれほど混んでいなかった。閉店時間が迫っているからだろう。

「先輩、実は遠賀の方で、年配の夫婦が首を吊って自殺していたらしいのよ⁉」

「ふうん。心中自殺なの?」道子はあまり話に乗り気でなかった。また、かおるのお喋りを聴かなきゃならないのかと鬱陶うっとうしい気持ちだった。

「それがね、ご主人の母親をふたりで山の中に捨てたんだって!」

 道子はギョッとした。

「何でも認知症で、世話が大変だったらしいのよ」と、かおるは続けたのだった。

 道子はハッとして、かおるに訊いたのである。

「それって、何処どこ何時いつの話なの?」

「場所は遠賀町おんがちょうで、昨日の新聞に出てたらしいの。わたし、遠賀のお客さんから聴いたのよ」

「遺書とかあったのかしら?」道子は気になった。かおるは道子が話に乗ってきたので、嬉しそうであった。

「それがね。凄く詳しく書いた遺書を残していたんですって!」

「遺書の内容も公開されてるの?」

「ううん。それは発表されていないんですって。今後のお母さんの捜索に使うのかもね?でも、不思議よね。お母さんの行方が全然分からないなんて!先輩、どう思います?」道子は

「そうだねえ」とつぶやくしかなかったのである。

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