第二話 いざ、儀式へ
数時間後。
白い
「やっぱ、袴っちゅうのはこう……しっくりくるわ。背筋が伸びる感じがしてな」
腰に手を当てながら、
「ええ、分かります。なんかこう……気持ちが引き締まるんですよね」
「お、
芹田が嬉しそうに言う。その隣で、
「うんうん! この格好になると、なんか気合が入るんだよね〜!」
「奈沙さんはそんなに変わらない気がするんですけど……」
「もう、大地くんったら! 私だって、ちゃんと気合入れてるんだから! こう、ビシッと!」
奈沙がそう言ってポーズを取る。その仕草に、
「あははっ、奈沙ちゃんおもしろ〜い」
「もう、葉子ちゃんまで! ひどいっ!」
そう言いつつ、奈沙も楽しそうに笑う。そんな彼女たちの様子を、
「
鈴菜の側に歩み寄った大地が声をかける。鈴菜はハッとした様子で顔を上げた後、控えめに頷いた。ポニーテールの髪型はそのままに、
「はい、大丈夫です。私は、部活で着慣れていますので……」
「あ、そっか。草本さん弓道部だったよね」
「はい」
「俺は柔道部だからなあ……。道着なら着慣れてるんだけど……。そっか、だから似合ってるのか」
「……ぇ」
「ん? どうかした?」
「……い、いえ。なんでも……」
鈴菜は
「大地さん、鈴菜さん!
葉子の呼びかけに、二人は慌てて姿勢を正す。そして部屋へ入ってきた春枝へと向き直った。
「お待たせいたしました。皆さんお揃いですね」
春枝は穏やかな笑みを浮かべ、大地たちを見回す。その隣には
「それでは早速、儀式の段取りについて説明いたします。皆さんご存知かとは思いますが、改めておさらいしましょう」
春枝の言葉に、五人は
「儀式は、ここから少し離れたところにあります『
「町の人たちを、不安にさせちゃいけませんもんね」
大地が頷きながら言う。春枝は「その通りです」と返すと、さらに説明を続けた。
「病魔は既に、七守山に集まっています。儀式を行い、それらを浄化するのが、私たち『若草の
「ま、要は『病魔退治』っちゅうことやな。いつも通りや」
芹田が言うと、春枝は「はい」と言って頷いた。
「皆さんには、それぞれの道具で病魔を浄化していただきます。方法はそれぞれ異なりますが、基本的にやることは同じです」
「はい! 質問いいですか?」
葉子が元気よく手を挙げる。春枝は笑顔で頷いた。
「どうぞ」
「今年も、ペアと配置は同じですか?」
「ええ、その通りです。馴染みの方と組んだ方が連携も取りやすいでしょうから」
「やった! また田平さんと一緒だ!」
葉子は嬉しそうに言うと、隣にいる田平の方を見る。田平もまた、穏やかな笑みを返した。
「今年もよろしくね、葉子ちゃん」
「はい! こちらこそ!」
そんな二人のやり取りを微笑ましそうに見つつ、春枝は話を戻す。
「さて、最後に一つ……注意事項があります。今回も、儀式中は互いを『
「若名……ですね。分かりました」
鈴菜が返事をすると、春枝は満足げに微笑む。そして再び全員を見回してから言った。
「それでは、参りましょう。病魔を
春枝の言葉に、全員が力強く頷く。こうして彼らは儀式の地・七守山へと向かうのだった。
◇
若菜屋を出発した一行は、七守山へと続く山道を登っていた。先頭に立つのは春枝だ。その後に続くようにして、大地たちは歩いていく。途中何度も分かれ道があったが、春枝は迷う素振りもなく進んでいく。
やがて、一行は開けた場所に出た。そこは山の中腹にぽっかりと空いた平地で、辺り一面に雪が積もっているためか、空気はひんやりとしている。
「さて、皆さん。まずは準備をしましょう」
春枝はそう言うと、
「この『
春枝の言葉に、大地たちはそれぞれ塩を手に取る。そしてそれを体全体に振りかけた。すると不思議なことに、彼らの中からすっと寒気が消えたような感覚があった。
「これで準備は整いました。それでは始めましょう」
春枝がそう言って手をかざすと、周囲の空気が一変した。まるで空気の流れが変わったかのように、周囲の木々がざわめき始める。
「皆さん、気をつけてください」
春枝の口調が真剣なものに変わる。そして次の瞬間、大地たちの目の前に、黒い
「出たな、病魔ども……!」
芹田が身構えながら叫ぶ。その隣では、奈沙もまた険しい表情を浮かべていた。
「さあ、皆さん。それぞれ配置についてください」
春枝の指示に従い、大地たちは配置につく。彼らはそれぞれ東西南北の方角に立つと、それぞれの道具を構えた。
「それでは、儀式を始めます。皆さん……ご武運を!」
春枝の言葉を合図に、大地たちは一斉に動き出した。
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