大宇宙ニャトランティス
大星雲進次郎
大宇宙ニャトランティス
数世紀ぶりに回帰してきた大彗星。
そのコマには、大彗星帝国ニャトランティスの宇宙要塞が隠れていた。彗星の尾が地球を掠めたその日、彼らは一斉に襲いかかってきたのだ。
防衛艦隊がスクランブル発進するも、全人口の半分が戦意を失った現状では先進文明をもつニャトランティス軍に敵うわけもなく、地球は瞬く間に彼等の植民惑星となった。
まあ、ここまではよく聞く話だ。
「実に騒がしい。他に店はなかったのか」
ミカエル、通称ミケがステキなバリトンで苦情を言ってきた。
「我慢しろ。こういう店のほうが変な噂を立てられずに済む。君と私が個室で食事でもして見ろ、要らぬ腹まで探られるぞ」
「ワシはいっこうに構わんがな、チャトラヌス」
「本当に君は……まあいい」
チャトラヌスと呼ばれた青年はテーブルの呼び鈴を鳴らし、店員を呼ぶ。
「イラッシャイマセ。ゴテウモンオウカガイマス」
「エールを二つ、冷えてない物を。今日のおすすめは?」
「ササミ、ツナ、カリカリ、デス」
「一皿ずつもらおうか。あとはまた呼ぶ」
「ウケタワマリマシタ……お客様ご注文です~温生中2!おすすめ3!」
「「「「よろこんで!」」」」
店員達の大声にミカエルは驚く。
「何だ!今のは」
「私も最初は驚いたさ。でもなれれば楽しいものさ」
「ワシにはうるさいだけだよ……」
二人はツキダシのカツオブシを突つきながら運ばれてきたエールでのどを潤す。
ここからは政治の話だ。
植民地にした以上、統治せねばならない。
ニャトランティスの遠い先祖とも言われていたこの星の人間は、巨大な猿型の生命体に文字通り飼い慣らされていた。救出のためとっさに攻撃をしてしまったのだが、猿達は特に抵抗もせず降伏した。
環境は良くはなかった。
虐待、人身売買、ネコスイ。考えられる非人道的なことは全て行われていた。
現地語でノラと呼ばれていたレジスタンスは捕らえられ、殺されたり去勢手術を無理矢理させられたりしていた。
住処に飼われていた者達はかなりの高待遇を受けている者が多く、それを見てニャトランティス達は待遇の差の大きさに非常に困惑したものだ。
ニャトランティスと猿との話し合いがもたれ、条約を結ぶことが決まった。対等ではないが人類の即時解放と待遇の改善。これを守る限り、猿達の文明継続は保証したのだ。
「このカリカリとかいうもの。なかなか楽しい食感だな」
「ミケ、気に入ったようで何より」
「チャトラヌス、本題は何だ。ワシとただ飲みに来たわけではあるまい」
ササミの汁が付いた皿をきれいにナメとりながら、ミカエルは鋭く切り込んだ。
「流石は皇帝の懐刀殿。君に見てほしい物が、出回っているんだよ。こんな普通の店にまでね」
チャトラヌスは呼び鈴で店員を呼ぶと、それを注文した。
「これは?やたらと良い香りだが」
運ばれてきたのはスティック状の物で、中におそらく肉でも入っているのだろう。しかしこの香りは!皇帝にすら意見をする事ができるミカエルの心も落ち着いていられない。
チャトラヌスが封を切る。慣れているはずの彼の手も心なしか震えているようだ。
「これはチ○~ル。おっと!少しだけだ。そう、その位。食べてみてくれ……」
ミカエルはスプーンにほんの少し取ったチュ○ルを恐る恐る口へ運ぶ。
劇的だった。味覚が神経を通り脳に伝わるより速く!快感としか言いようのない衝撃が、ミカエルの全身を襲う。
ミカエルは夢中で二口目に手を伸ばすが、チャトラヌスに制止される。
「チャトラヌス、何故!?」
「落ち着け」
「あ、ああ。すまない」
「猿達がこの星の人類を手懐けるために開発したものさ。その効果は、今試してもらったとおり」
「確かに、これは……」
ミカエルはチュー○から目を離せない。
「水でも飲んで……もらってくるよ。待っててくれ」
チャトラヌスは厨房の入り口までゆっくり歩いていき、
「ナーオ」
一声鳴いた。
「おお、チャトラン。どうした?」
「ナーオ」
チャトラヌスは座敷に残してきたミカエルのほうを振り向く。
一心不乱に○ュールにむしゃぶりつく、三毛猫がそこにはいた。
「偉いぞ、チャトラン。……ご褒美だ」
チャトランは床に置かれた皿の上に盛られた○ルカンをゆっくりと食べる。
「ナーオ」
○○~○もいいが、断然俺はカル○ン派だ。なんて考えているみたいに。
地球帝国がニャトランティスに反旗を翻す、ひと月前の出来事であった。
大宇宙ニャトランティス 大星雲進次郎 @SHINJIRO_G
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