帰り道、薔薇色に染まったのは


 ”明日香あすかって、好きなものとかある?”


 このラインが清春きよはるから送られてきてから、ずっとスマホとにらめっこしてる。

 早く返さないと、と思いながらも中々文字を打つ手が進まない。


(好きなもの……??)


 一旦スマホをベットに置いてうーん、と唸る。


 突然の清春の謎なラインに首をかしげた。


「好きなもの……ねぇ」


(好きなものって……何かあったっけ)


 アクセサリーとか? 最近アクセサリー集めたりするし。

 またスマホを開いて、”アクセサリー”と文字を打つ。


 そのまま送信ボタンを押す。

 すぐに清春から”オッケー、ありがとう!”と返ってきた。


 そこで、ハッと我に返った。


(そういえば、そろそろバレンタインだった気がする)


 清春にバレンタインチョコ渡そっかな。

 中学生があげるバレンタインチョコなんて、たかが知れてるけど。


(……手作りチョコ、かな。王道に)


 清春に手作りチョコ……。

 「嬉しい!」って言いながら幸せそうにチョコクッキーとか食べる姿が想像できるし。


 想像して、思わずクスッと笑う。


(よし、これで行こう)


 じゃあ材料でも買って来ようかなぁ、と立ち上がり、自分の部屋をあとにした。



   *  *



 バレンタイン当日――。

 放課後になって、私は速歩きで弓道場近くのベンチへと向かった。


 ベンチに着いたらすぐに座って、鞄の中のチョコを確認する。


(……うん、崩れたりしてない)


 一旦ホッと息をついて、カバンを閉めようとした瞬間――。


 ヒヤッ


「っ!?!?」


 首に冷たいものが触れて、声にならない悲鳴を上げる。


「……っははは! 今度は引っかかった!」


 後ろをふりかえると、お腹を抱えて笑っている清春の姿が。

 私は赤くなった顔を隠すように、ぷいっとそっぽを向く。


「もう口聞かない」


「っえ!? それ困る!」


 ちらっと清春を見ると、顔を真っ青にしてアワアワしてる。

 その姿が可愛くて、盛大に吹き出した。


「なんで吹き出すのっ!?」


「ごめんごめん、冗談だから」


「え、冗談!? 本当に?」


「うん」


 よかった~、と安堵している清春。

 その姿にクスクス笑いながら、「そういえば」と話を切り出す。


「今日、バレンタインでしょ? ――はい」


 そのまま清春に手作りのチョコクッキーを差し出す。

 清春を見ると、顔を真っ赤にして硬直してる。


「大丈夫? 顔真っ赤だけど」


「……っ、くれると思ってなかった……!」


 ヤバい、嬉しい、ありがとう、と連呼する清春。


「え、明日香って料理できるの?」


「できるよ、めんどくさいからしないだけで」


「ええ~……! もったいなくて、僕一生食べられないかも……!」


「いや食べてよ」


 二人で笑い合う。

 そしたら清春がハッと鞄の中をあさり始めた。


「えっと……僕も明日香にプレゼントがあって……」


 「はい!」と小さな袋を差し出してくる。


「……あれ? これなに?」


「え? 今日でしょ?」


 清春が不思議そうに首をかしげる。


(? ……あっ!)


「あ~……そっ、か。誕生日だもんね」


「え、忘れてたの?」


「忘れてたって言うか、誕生日がバレンタインだから、毎回プレゼントが友チョコだったんだよね。チョコ以外のプレゼントってあんまりないから……開けていい?」


「もちろん!」


 私は丁寧に袋を開けて、中身を見る。


「――かわいぃ……」


 薄い赤の薔薇ばらのイヤリングが、コロンと手に落ちてくる。


「その、前メールで好きなもの聞いたら”アクセサリー”って返ってきたし、れーちゃん――姉ちゃんに色々聞いて……」


 じわりと胸に温かいものが広がっていく。


「……明日香? どうしたの?」


 黙っていたからか、清春が心配そうに私を覗き込む。


「ううん、好きな人からのプレゼントってこんなに嬉しいんだなぁと思って」


「すっ……!!」


 ボボッと清春の顔がイヤリングの薔薇のように真っ赤になっていく。


(……あれ? 確か恋人にって、”側にいたい”・”貴方を守りたい”じゃなかったっけ……?)


 次の瞬間、ボンッと自分の顔が赤くなったのがわかった。


「え!? なんで赤くなってるの!?」


 清春に指摘してきされたけど、今はそんな事は考えられない。

 顔が茹でタコの様に赤くなっていく。


「ぃや……だぃじょうぶ……」


 顔を手で隠しながら、何とか答える。


「…………ちなみに、意味わかっててこれ選んだの?」


「意味?」


「無意識かぁ……余計恐ろしいね」


「え、なんのこと? 何の話!?」


「いや、清春は知らなくて大丈夫」


「そう言われても気になるよ!」


 隣で叫ぶ清春。

 そんな清春の手を繋いで、引っ張る。


「ぅわっ!」


「はいはい、早く帰ろ!」


 私は赤くなった頬を隠さずに、清春の方を向く。


「……薔薇のイヤリング、ありがと。嬉しかった」


「僕もありがとう。クッキー、食べるの楽しみ」


 微笑みながらそう言うと、清春も幸せそうに微笑み返してくれた。



 二人で手を繋ぎながら、頬を薔薇色ばらいろに染めて冬の道を歩いた――。




 ……後日清春がを調べて、思わずスマホを落としてしまったのはまた別の話。



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帰り道、薔薇色に染まったのは 朝凪 SANA(*^^*) @sana-chan

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