第25話:このおりこうさんめえ!
連続昏睡事件。
ここ半年ほどファリアスで発生している怪事件である。被害者の数はひと月前までで二百人ほど、職業や性別はまちまちで目的も不明。
ただ、唯一の共通点が非戦闘員であると言うこと。一般的な職業に従事する者もいれば、冒険者と共に同行するようなアクティブな仕事をしている者もいるが、戦闘力を持たない点では共通していた。
学生も皆、Cコースの者たちばかり。それは以前までぽつぽつ発生していた学外で昏睡した学生も、今回のように学内で昏睡した学生も同じ。
全員が力を持たない者たち。
「それゆえに国は冒険者のような武力を持つ相手では都合が悪い、非力な者が犯人だと考えていたようだ。君はどう思う?」
「擬態じゃな。必要なのは数で、それを揃える時間を稼ぐための餌じゃ」
「私もそう思っている。これだけの大掛かりな犯行を、もし個人で遂行しているとすれば、その者の技量は凄まじい。そもそも、国もクー君の姉君のおかげで判明した結界術の件から、少なくとも結界術に長けた者、と考えている」
「何らかの方法で人払いも可能じゃろうな」
「クー君や君が『エリン』を無断使用した件だね。そう、あの日だ。あの日から事件は一気に加速した。市井の被害者も増え、同時に学内でも……見境なしだ」
「……」
「心当たりは?」
「……強い敵がおった」
「敵?」
「ぬしらが束になっても手も足も出ぬ相手じゃ。わしが仕留めた」
「ハァ? 何寝言を――」
バキ、超美人の先輩、その背後の壁に大きな傷が刻まれた。アハトは何もしていない。視線を送っただけである。
「無論。その敵を討ったわしもまたそういう手合いと思ってくれてええ。じゃが、わしの間合いに他の者はおらんかった。痕跡も完全に消しておる」
「……百聞は一見に如かず。君が何故Cなのかは興味をそそるが、それは一旦横に置こう。君が怖いからね。重要なのは……罠が張られていた事実、か」
リーベルは少し考えこみ、
「狙いはクー君、かな」
クーへ視線を送る。
「僕?」
「彼に情報が漏れるように仕向けられていた一件から、もしかしたらとは思っていたんだ。おっと、そう肩を落とさないで、君のせいじゃないから」
おそらくクーへ情報を漏らした、が、その記憶が存在しない生徒会の先輩、と言うのが超美人の彼女なのだろう。
ちなみに現在、生徒会は三名であるが、これは各学年の代表者三名であり、必要に応じてサポート役を付けることも可能であるが現在は席を外させている。そもそもクーにはまだその役割がいない。コミュ力がなくて見つけられていない、が正しい。
「最初は政治的意図、かと思っていたけれど、アハト君の発言のおかげでそちらじゃなくて、器狙いだったのでは、と私は推測するかな」
「器狙い?」
「彼はいずれ『ノワール』を継承する七大貴族の嫡男だ。今は若く成熟していないが、潜在的な能力は我々の比ではない。つまり、彼の存在は数を埋める。それが魔力を必要とするものなら、ね」
「……」
「どうだい、君のお眼鏡にかなったかな?」
「……どうじゃろうな」
頭が切れる。この名門の生徒会長なのだから当然ではあるが、それなりに多くの人々とすれ違ってきた自分の眼から見ても傑物に映る。
だから、なおさらに重なるのだが。
「ちなみに君の中でも答えは出たかい?」
「一応の」
「じゃあ、答え合わせだ。敵の狙いは――」
アハトとリーベルの口は同時に、
「「エリン」」
その答えを導き出した。
「私たちは相性がよさそうだ。そう思わないかい?」
「思わん。むしろ、わしの見立てでは最後に崩壊するわい」
「なら、それまでは上手くいくわけだ」
「……っ」
ああ言えばこう言う。口では敵わないとアハトは理解し、口をつぐんだ。それを見てリーベルは嬉しそうにくすくすと笑う。
「会長、『エリン』には防壁があります。絶対的な」
「それを打ち破る術があるんだろう。そのための……エネルギー源が昏睡状態の人たちだ。ご丁寧に我々はひとところに、この都市の病院を一棟貸し切り保管してあげているわけだ。敵の狙い通りに」
「そ、そんな」
敵が勝負を急ぎ始めた。ゆっくり、遠回りしていればきっと、此処まで目立ちはしなかっただろうに。
「容疑者はおるんか?」
「結界術に精通する魔術師を先生や上級生たちが当たっている。事件が激化してからより一層、入出国のデータとにらめっこしながら」
「ほぼ、潰れておる、と」
「だけど、誰も調べていない、かつ全ての事件を一人で遂行可能な人物が一人いる。誰も疑っていない、私も疑いたくない人物が」
「誰じゃ?」
「Bコース統括責任者、セスランス・アリファーン」
「「!?」」
クーと超美人の先輩は目を見張る。Cのアハトは縁遠いが、Bならば絶対に教えを乞う相手。この学び舎の創設時から支える教師であり、
「私の叔父、英雄ミーシャと共に魔王討伐へ赴いたパーティメンバーで、史上最強クランであるエルピスにも属していた。この都市に欠くことの出来ぬ人材だ」
世界に平和をもたらした英雄の一人でもある。
○
白いローブをまとった魔術師は人ごみをするすると進みながら、
『随分と急いているみたいだね、我が友よ。らしくないんじゃないか?』
「かもしれない。だけど、あの男が介入してきた恐れがある。我が子可愛さで」
誰もいない虚空から響く声と会話していた。
相変わらず声色も、何も読み取れない。それどころか人ごみの、近くにいる者たちの眼も、目立つ格好の魔術師を映すこともなかった。
『あの男?』
「魔王軍が七大将、『ノワール』の称号を持っていた者だ」
『……行方知れずの元大将、か。子ども可愛さで動くような性質かね? 腹が減った、という方がよほど理解出来るけれど』
「メルテンスがやられた」
『……なるほど。それなら少将以上は要る、か』
「こちら側でフラフラ活動している魔族は少ない。そして、一応大義名分もある。息子を襲った相手を喰う、と言うものが」
『あれも神出鬼没だからなぁ。通りすがりで、は考えられるか。そのついでで』
「エリンを喰いたい、こちらの狙いに気づけばそう思う。あの男の気質は理解している。嫌と言うほどな」
『はは、そりゃそうだ。急ぐ理由は理解できた。先にエリンに手をかけねば、捲られる可能性もある。あれの貪欲で、特に食欲は抑えられない性質だ』
「……」
『私の手はいるかい、友よ』
「不要だ。エリンを譲る気はない」
『要らんよ。知っているだろう? 私はロマン派なんだ。今度こそ成功させてみるよ、十三年越しの計画を。我が至高の術式、魔界転生をね』
「それに失敗したせいで、今の魔王に立場を追われたと言うのに、まだ諦めていないのか。らしいと言うか、頑固者だな」
『お互い様さ。それでは成功を祈るよ。邪魔者が入らぬこともね』
「ああ」
白いローブの魔術師はふっ、と陽炎のように雑踏の中から消える。
そして、
「……あっ」
ドサドサドサドサ、
「きゃああああああああ!」
一気に二十人以上、すれ違った者たちの意識を奪い、昏睡させていた。
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