第12話:ちびっと見学、冒険者ギルド
いざいざ、再び大都会へ。
集合都市国家ファリアスの敷居を意気揚々と跨ぎ、アハト・オーテヤーデが長老から託された片刃の剣(錆び錆び)を携えやってきた。
寮の部屋割りは最初のオリエンテーションのあとにあるらしく、その日までは再びホテル暮らし、ならぬ酒場暮らしであった。
「一滴ぐらいええじゃろ!」
「学生に飲ませられるか!」
「正式に学生となったら校則とやらで飲めぬのじゃ! それゆえ、シャバにおる内に一滴、の。そこからは真面目に禁酒するから」
「校則云々の前に法令順守! うちは清く正しく美しくやってんだ!」
「ぐぬぬ」
父の遺産などで出してもらった学費である。学生になったらルールを順守し、僅かな隙すら作らぬつもりであったが、ならば学生になる前ならセーフじゃろ、理論である。どうやらこの元剣豪、無頼の生活が長く、そういう法律がきっちりしていない世界、時代からやってきたようで色々と軽んじる節がある。
戦中ならともかく、戦後の今は都会ほど厳しい世知辛い世の中である。
酒場のマスターが常識人で後々助かった、とアハトは思うこととなる。
「と言うか、兄ちゃんはギルドに登録とか行かねえのか?」
「なんじゃ? パン職人でもなれっちゅうことか?」
「なんでだよ。ギルドって言ったら冒険者ギルドだろ?」
「……なんじゃそれ」
「何で知らねーんだ!? ファリアス国立学院の学生なんだろ?」
「うむ」
「腰に剣を提げてんだからBコースなんだろ?」
「否。Cじゃ」
「だろ。だから……え!?」
「わし、Cコースじゃ」
「……その感じで、クリエイター志望なの?」
「うむ。まあ、何を目指すかはまだ決めておらぬがの。自分が何かを生み出す側に立つなど……未だ実感はないのじゃが」
「駄目じゃん」
「じゃのお」
駄目と言われたのにその通りだ、と微笑むアハトを見てマスターはどうにも調子が狂う。場末の安酒場とは言え、接客業を長く続けてきた。それなりに人間と言う者に対して目端の利くようになった自負はあるのだが、このアハトと言う少年のことは未だによくわからない。
最初は少年が老成しているように見せている、と思っていた。
今は逆に老人が若者に成り代わっているようにしか見えない、思えない。
そんなわけがないのに――
「で、わしその冒険者ギルドっちゅうのがちと気になるのじゃが」
「暇なんだな」
「正解じゃ!」
がはは、とアハトは大笑いする。
○
冒険者ギルド。ファリアス国立学院の学生(B)も実習やクラブ活動の兼ね合いで登録するらしい謎の組織である。
その具体的な活動内容は大小様々な依頼を振り分けたり、人類の目標でありギルドの悲願でもある地図上に広がる空白地帯、それを埋めるために活動したり、と活動内容は多岐に渡る。ただ、彼らに共通するのは、ギルド登録者はギルドの組合員(課長以上)の立ち合いの下、『エリン』を用いた転移を扱うことが出来ると言うこと。
これが登録する最大のメリットとなる。
無論、むやみやたらに使わせるわけではないが、適切な人員によって編成されたパーティが、適切な目的を持っているのなら拒否されることはない。集合都市が特別な理由であり、ここが冒険の起点となるのだ。
『エリン』に登録された土地へ双転移可能で、それによって人類はじわじわと観測領域を伸ばしつつあった。
ただ、世界地図に広がる空白地帯は現状、空白の方が遥かに大きいと見込まれている。それは水平線から算出したこの星の大きさから弾き出されたものであり、開拓済みの土地は現在人間と和睦している魔族のものを含めても十分の一程度。
そして、空白地帯のみならず、その手前にもうじゃうじゃいるのが魔獣、モンスターである。市井の者は混同していることも多いが、魔族と魔獣は意志疎通が可能かどうかの大きな違いがある。まあ、曖昧な種も少なくないが。
空白地帯には未知の魔獣や未知の種族がいるとされており、実際に勇敢な冒険者が年間何十人も行方知れずとなっている。
とまあ、そういうワクワクする話をしたところ悪いのだが――
「ケチじゃのぉ」
アハトはきっちり門前払いをされていた。Bの学生ならばいざ知らず、Cの人間を誰の紹介もなく登録させるほどギルドは人材不足ではなかったのだ。
『エリン』擁する集合都市、冒険者ギルドの本拠地だけあってとんでもない賑わいを見せている。多くの冒険者が出入りし、わけのわからぬ小僧に構う暇はない、と美人受付が笑顔のまま失せろガキ、ってオーラを出していた。
(しかしまあ、知れば知るほどに面白い世界じゃのぉ)
アハトももちろん『エリン』のこと、空白地帯のことは知っている。魔獣、モンスターのこともそれなりに勉強している。
一般常識であり、テストにも出ることがあるから。
田舎と言ってもアハトの故郷はすでに多くの尽力によって魔獣が駆逐された地域であり、世界全体で見れば安全の担保された生存圏である。
ファリアスまでの道中も同じ。
魔獣が闊歩する土地をアハトは知らない。少し見物でも、と思ったがどうやらそれは叶わぬ模様であり、長居は無用とアハトは判断した。
まあ、鬼の闊歩する世界が生まれ故郷である自分にとって、むしろ若き日の郷里を想起させる程度でしかない気もするが――
そんな時、
「む?」
アハトの視界の端で女性が倒れる。
「だ、大丈夫か!」
仲間と思しき者たちが倒れた女性を起こそうとするが、彼女はピクリとも動かずに倒れたままであった。
(呼吸はある。心音も正常じゃ……が、吸われとるのォ)
アハトは目を細め、皆が困惑している状況の把握に努める。自分は専門家ではない。あくまで過去の経験値、その蓄積があるだけ。
あまり前に出るのも違う。
「魔獣の毒か?」
「いや、さっきこの学者先生の護衛で行った場所に、こんな遅効性の毒を持つ魔獣なんていなかったし、そもそも指一本触れさせてもねえよ!」
「……じゃあ、もしかして最近流行りの……」
「……いつだ? 護衛対象を危険にさらす真似なんて」
少し気になる文言もあるが、自分も対処は不可能。それゆえに関わる気はなかった。どうにもきな臭い気配がしたから。
だが、
「僕がやる」
アハトと同じくらいの身長の黒髪の剣士が近寄り、剣を抜きながら、
「魔境剣・闇――」
何かを唱えようとしたタイミングで、
「手を出すでない」
誰の目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、アハトは剣士の抜く手を抑えて止める。
「誰?」
「誰でもよかろう。関わる気もなかった。が、浅い見立てで人を殺す暴挙は見過ごせぬ。わしでも解けぬ仕掛け、ぬしでは何もかもが足りん」
「僕なら救える」
「思い上がりじゃ。よぉ見よ。二段仕掛けじゃ。よぉ見える繋がり一つ断てば……もう一つの仕掛けが作動する。逆もまたしかり」
「……っ」
「それとも理を同時に二つ、断てるか?」
「……」
誰もがぽかんとする中、アハトは本気で説教していた。若い身でこの仕掛けに気づいたのは見事であるが、だからこその罠にかかるところであった。
これはそういう悪辣な仕掛けであるのだ。
「……君は、いったい何者だ? 何故、魔眼を持たぬ者に結界術の、本来不可視の繋がりが見えている?」
黒髪の剣士、その眼がどろりと陰る。
「さての。亀の甲より年の功やもしれぬな」
精進せよ、若いの。とアハトは黒髪の剣士の肩をポンと叩く。
「今すぐにどうこうなる仕掛けではあるまい。そして、これは本体を仕留めねばどうにもならん。ま、関係者ならば焦らず探すことじゃ、狡猾な蛇をの」
「……」
騒然とし、少しずつ人も集まってきたためアハトはするりと群衆の方へ滑るように移動し、姿をくらました。
その足捌きに、黒髪の剣士はさらに目を見張る。
そして、
「……」
自身の持つ魔眼、『闇淵』にて見る。白目も含めすべてが闇に塗り潰された眼が映し出すのは、『エリン』へ伸びる白い繋がりとそれと連動し心臓の影に仕込まれた、小さく見逃しそうなほどの白い点。
危うく殺すところであった。
「お待たせしました。どうされましたか?」
「……リーベル殿、姉上。彼女を病院へ」
「……これは」
黒髪の剣士と待ち合わせをしていた様子の金髪碧眼の王子様、リーベル・ゼタ・ファリアスと黒髪の剣士と似た容姿の女性が目を見張る。
それは、
「……また、ですか」
立場上、様々な情報に精通する男の知る症状であったから。同時に姉の方も魔眼を浮かべ、状況を把握する。
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