高校生の黒野一希は憧れだった生徒会長の朱嶋理音に意を決して告白する。帰ってきた返事はあまりにもあっさりとした承諾。その淡々とした反応に喜びと同時に困惑に襲われる一希だが、理音は続けて言う。「その代わり……ひとつだけ、お願いがあるの。キミの、脳みそを食べさせて」と……。
ゾンビになってしまい人間の心を取り戻すためには誰かの脳みそを食べる必要があると語る理音。だが一希も流石に脳みそを食べられるわけにはいかない。結局二人が合意したのは、一か月間試しに恋人となってその期間中に彼女の心を取り戻せられれば関係を継続するというもの。ただしダメだった場合は……。
言動の端々から死の気配を漂わせ、それが一つの退廃的な魅力になっている理音との会話は非常にスリリング。だが、本作で真に注目すべきは物語のスピード感だろう。
冒頭に提示された「理音は何故ゾンビになったのか?」という謎への答えは、中盤であっさりと明かされる……が、そこからの展開は読者の予想を大きく超える。畳みかけるような予想外の展開が連続して圧倒されてしまう。決して長くはないが、一度読み始めてしまえば最後まで一気読みしてしまうこと間違いなしで、狂気と偏愛に満ち溢れた内容に仕上がっている。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)