転生者保護活動組織マックス(人員一名)
第4話
夜が明けた。
食事の前に筋トレのルーティーンなどを
畑にはトマト、キュウリ、じゃがいも、キャベツ。
トマト、キュウリ、キャベツは大きくなったものを収穫していく。
ジャガイモと豆類の収穫はまだ先だ。
麦を蒔くのはもう少し寒くなってからでいい。
今日は九の月の一日目で流石に早すぎる。
水浴びをして、朝食にする。
塩蔵した鹿肉を水で塩抜きしたものと、トマト、じゃがいもを薄切りにして、バターを回した鍋に放り込んで炒める。
じゃがいもの色が変わってきたら、キュウリのざく切りと水を入れて軽く煮込む。
最後にハーブとチーズの薄切りを投入し、味を調整したら完成だ。
白パンとザワークラウトもどきと一緒に頂く。
正直あまりおいしいとは思えない。
まあでも、こんなものだろうと思いながら、黙々と片付けていく。
この世界に来て二年、季節と収穫の次第によって素材も移り変わったが、ずっとこんな感じの食事だ。
今日は白パン付きなので豪勢な方だろう。
別にうまい飯を食うために転生してきたのではない。
目的を果たしたいだけだ。
一部を除いては自給自足の、一見すればスローライフだが、それは効率化の手段であって目的ではない。
ウィジェットで表示された時刻を確認すれば、あと三十分で彼らが来る。
地下に降りて最終確認しておかなければならない。
コンテナ類を召喚して、中身に間違いが無いか確認する。
銀貨金貨の類、宝石、金銀のインゴット、武器、魔道具、衣類、ポーション。
確認ヨシ!
あ、クロスボウのボルト…。
ヨシ!
マックスは、マップに表示された時間を見た。
九時である。
マップの中に緑の輝点が表れ始める。
マップ操作で大都市圏をチェック。
おおまか都市の近くに転生してくれているようで何よりである。
だからといって危険じゃないとは言えない。
人間、死ぬ時と死すべき時は、あっさり死ぬものなのだ。
マップ操作に戻りあちこちとチェックしていくマックスである。
「この近くにも何人か居るな。ん? なんでそんな変なところに?」
見る限り、この近くには四つの反応が輝いている。
カルヴァンの街から西の山脈へ延びる街道近くに二つ。
この二つは離れているが、その街道のカルヴァン側に二つ。
カルヴァン側の二つはそれほど離れてはいないな、というのがマックスの見立てであった。
「なら、こちらは後回しでいいか。むしろ山脈側の二人が不味い場所にいる」
山脈側の二人はなぜこんなところにいるのか?
マックスには、さっぱり分からなかったが保護対象には違いない。
山脈側の二人を保護した後、カルヴァンに向かい、既に確保してあった家に放り込めば良い。
雑に完璧な作戦である。
小屋を出て鍵を掛ける。
街道を目指して、いや、街道の宿屋を目指して移動する。
森の中を走りながらマップを確認する。
この宿はやばいのである。
近寄って欲しくなかった。
だから、彼らより先にたどり着きたい。
しかし、そう
カルヴァン側の一つの光点が、森のすぐ
まだ九時とは言え、この辺りの九の月はまだ夏。
もう獣たちは活動を始めている。
「ああ、馬鹿! 森に近づくな! 死にたいのかよ!」
マップをその光点中心にズーム。
見る間にマップ上に変化が表れた。
森の中に入った緑の光点が、前後左右に、小刻みに動き始めたのである。
恐らく戦闘に入った、とマックスは直感した。
即座に方向転換。
マックスは魔法でブーストを掛けながら、全力で駆け出した。
「《
《
正確には、術者の周囲に展開された空間の時間だけが加速しているのだ。
ただし、《時間歪曲》の魔法は『飛行』魔法と同じく、効果中は魔力が減っていく。
『
マックスはとにかく急いだ。
ヌーブだのノービスだの言われるような状態の転生者が、勝てるような敵ならいいのだが、この森はそんなに甘くはない。
だからこそ、あの小屋で待機していたのだ。
もちろん、それだけでは無いのだが。
あの辺りなら
「翻弄されているな…」
動き方からノービスキラーと名高い、
マックスは、マップを見ながら森の中を駆け抜ける。
途中で小川を超え、倒木を飛び越え、そして、緑の光点が消えた。
間に合わなかったようだ。
マップには赤い
カウントダウンは蘇生可能時間だろう。
この時間を超えれば魂は輪廻の環に帰り、生き返ることはできない。
「ばっかやろうが! 自分で危険に近づきやがって! 後でぶん殴ってやる!」
犠牲者が食い散らかされる前に行く必要がある。
それに時間を掛ければ蘇生の
それに、
大きな群れなら人間一人程度では満足しない。
だが、その転生者は、犠牲者のほうに向かって移動し始めていた。
最悪である。
マックスは走りながらマップを操作し、自分と犠牲者、もう一人の転生者の位置をマップに収めた。
普通なら、走りながらのマップ操作は困難だ。
きっと転ぶに違いない。
木の根に足を取られるとか、木の葉に隠れた石に
これが出来るのはひとえに《
あともう少しで着ける。
「頼むから背中を見せてスタコラサッサはしないでくれよ」
そんな如何にも「襲ってください」と言わんばかりの事をやられると、面倒なことになる。
マックスは
魔法の魔術起動は詠唱などをしなくても発動し、魔術の制御下に置くことが出来る。
用意した十二本の電撃の矢は、魔術の制御下に入った。
走るマックスにぴたりと追従している。
マナポーションで魔力を補充する。
走りながらポーションを飲むとは器用なものである。
背中に背負っていた自作クロスボウを右手に持ち直し、
「見えた!」
そう言った瞬間に
恐らく、残りの転生者だ。
ざっと見て八匹ほどの
マックスは待機させていた〈
魔術による魔法制御は本来なら融通が効かない魔法の使い勝手を向上させてくれるのだ。
これが通常の魔法発動されたものなら一目標に全て飛んで行っただろう。
四匹が死亡ないし行動不能となった。
こちらに襲い掛かってくる
それは間違いなく首に着弾、動きを止めた。
残り、三匹。
姿の見えぬ転生者から
残り二匹。
すかさず
残り一匹。
魔力の残りが三割を切った。
《
これ以上は、他の転生者を保護するときに支障が出る、との判断であろうし今のマックスならば、たかが一匹の
逃げれば良いのに、残った一匹が左手を狙って飛び掛かる。
その口元には血が付いていた。
都合が良い。マックスにとっては都合が良いのである。
そのまま嚙まれるに任せた。
なあに、前歯で噛まれるのは大したことじゃない、とばかりに噛まれた手で
掴まれた
大型犬を超える身体を駆使し、力の限りに暴れた。
「こやつめ、ハハハ」
マックスは気にもしない。
この
それに転生してからのトレーニングと、魔法・魔術の補助で大岩のような安定性を得ている。
顎を掴む力も尋常のものではない。
握力計があったなら全力で測って欲しいところである。
「悪いな、人間を食い殺したやつを生かしちゃ置けねえよ」
言うなり近くの木を目標に、力任せに叩きつける。
「君がッ死ぬまで! 殴るのを止めない!」
二度目の叩きつけで絶命した。
三度目の叩きつけは念のためだ。
さて、まだ生き残っているのが居るかもしれない。
流石に
問題はマックスの魔法と
マックスは腰から短剣を引き抜くと、一匹ずつ止めを刺していった。
魔術で《生命探知》の魔法を起動し、周囲を探る。
反応があったのは一つだけ。
転生者だ。
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