2−5

 ごくり。

 オレは唾を飲んだ。

 楽天家の高坂も、この状況を見るとさすがに唖然としている。ついた先にあったのは……。


「これは、鏡か?」


 オレは村みたいな場所の手前にあった大きな石に手を触れる。石と言っても、自分の姿が反射されるので『石のような鏡』と言ってもおかしくはないだろう。そんな石のような鏡……または、鏡のような石に囲まれているのがこの村だ。


「悪趣味……だが、これはもしかして」

「高坂!?」


 落ちていた尖った小石を、思い切り鏡のような石に打ち付ける。が、びくともしないしひびも入らない。


「これは……まさか、ダイヤモンドなんじゃ」

「はぁ!?」


 高坂の意外な言葉に、オレは素っ頓狂な声を上げる。


「こ、これが全部……ダイヤモンド?」

「ああ。もう少しやってみようか」


 キンキンキンキン!! と音は鳴るが、鏡のような石は傷ひとつつかない。なんという硬度だ。っていうか、これがもしダイヤだとしたら……。


「よっしゃ! これを手に入れたらオレたち億万長者じゃねぇか!! やったな!」

「でも異世界だぞ。換金できねぇし。そもそも大きすぎて持ち運べんだろ」


 高坂の冷静なツッコミに、高くなったオレのボルテージはだだ下がる。


「そうだな……」


 そのとき、足音が聞こえた。


「おいっ! すぐ隠れろ!!」

「え、隠れろっつっても、この辺全部鏡張りみたいな状態だぞ!?」

「るせぇ! 私が隠れろっつってんだから、とりあえず身を隠すぞ!」


 咄嗟にオレと高坂は石の後ろに身をひそめる。しかし、他の角度から丸見えなのだが。

 それでも村人(?)にそのままの姿を見せるよりはマシだろう。

 

 近づく人影にドキドキしながら様子をうかがう。ひとりじゃない。数人歩いてくる。その姿を目にしたとき――


「っ!」

(黙れっ!)

「うぐっ」


 びっくりして声が出そうになったとき、高坂に口を手でふさがれる。オレが目にした村人は、超絶美形ぞろいだった。性別は……多分男だよな? 凛々しいのもいれば、女みてぇに線が細い美人もいる。子どもも、ずいぶんと顔が整っている。そして耳が……とんがっている。


 村人たちが通りすぎると、ようやくオレは口から手を外してもらった。


「はーっ……苦しいんだよ、おめえ! 口だけじゃなくて鼻までふさぎやがって!」

「うっせぇな、お前が声出してたら、見つかってただろ?」

「まぁ……そうかもしれねぇけど。だけどアレはなんなんだ? 耳がとんがってたぞ? それ以外は人間にそっくりだったけど」

「まさかアレは……」


 高坂があごに手を当てて考える。ふぁんたじぃっぽい世界で、耳のとんがった人間みたいな美形……思いつくのはひとつだけ。


「宇宙人なのか!?」

「おめぇはアホか!! こういう世界だったら、あーいうのはエルフ一択だろ!! 異世界もののネット小説読んでたんじゃねえのか!?」

「だから、私が知っているのはさらっとだけだって。でも、アレが本場のエルフねぇ……。まぁ、川の精がいたんだから、こんなキラキラ光っている鏡張りの村に住んでいるエルフがいたっておかしくねぇか」

「そういうこった。でも、あっちに何かあるんだろうか? なんか連れ立って歩いてたよな」


 高坂とオレは、顔を見合わせる。


「行ってみるか?」

「上等。お前、メシを恵んでもらいてぇんだろ? 私もトイレ行きたい」

「便所ぐらいその辺で済ませろよ」

「年頃の女によく言えるな? そんなこと」

「うっせぇ、おめぇは女じゃねぇ」

「殴るぞ?」

「やってる場合か。行くぞ!」


 オレたちは、鏡張りの村の中、そっと村人たちをつけることにした。

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