第3章

3−1

 村人をつけると言っても、ダイヤモンドに囲まれた村だ。何か身を隠す布のようなものがないと、すぐにバレてしまう気がする。


「なぁ、高坂。何か変装というか、布みたいなのかぶったほうがいいんじゃね? オレたち、耳尖ってねぇし、オレはともかくおめぇは美形でもねぇ」

「はぁ!? お前、こんなところでまたタイマン張る気か?」

「ちげーよ! 存在がバレたらやべぇだろ! っつってんの! めんどくせぇやつだな……」


 面倒くさくしたのはオレか。まぁ、余計なひとことを付け加えたのは悪かった。しかし、高坂もオレの言うことに一理あると踏んだのか、あごに手を当てた。


「布か、変装できるものねぇ。あっ、そうだ。その辺の小屋なんだか家なんだかわかんねぇところにあるんじゃねぇか? ちょっくら忍び込んでやろうぜ!」

「でも、つけてないと見失うぞ?」

「どうやらここは一本道みたいだし、大丈夫だろ。それに私たちみたいな部外者が混じってるとまずいかもしれない。ちょっと行ってくるわ」

「お、おい、高坂!」


 高坂はオレを置いて、小屋だか家だかわかんねぇところに向かって走って行ってしまった。ったく……本当に人の話を聞かねぇやつだ。


 オレはエルフたちが本当にまっすぐ道なりに歩いていくかどうかをしっかりと見守る。

エルフが持っているオレンジ色の松明が遠くなってゆくと、だんだんと闇が覆いかぶさってくる。そして聞こえる、怪しい生き物の鳴き声。


さっきから「ボェェェ……」とか「ゴンギャロゴンギャロ」とか聞こえるのは、本当に生き物の声なのだろうか? でも、鳥の鳴き声っぽい、とは思う。ただここはファンタジーの世界だ。ドラゴンだとか謎の巨大鳥だとか、そういう可能性もあるからちょっと怖い。


「おぉーい! あったぞ、変装道具!」


 高坂が帰って来た。が、手に持っていたのは……。


「おい、なんで木のバケツ2つなんだよ。まさかそれをかぶれって言うんじゃねぇだろうな?」

「よくわかったな。布らしきものがなかったから、似たようなバケツでいいかと思って」

「布とバケツの共通点なんてねぇだろ」

「黙ってかぶれ! ほら!!」

「のわっ!」


 無理やり頭にバケツをかぶらされ、目元の木を力技で取り外す。まぁ……兜みたいにはなったし、耳元は隠れるけどさぁ……。


「無理あるんじゃね?」

「うっせぇな、私はトイレを探すので精いっぱいだったんだよ。それっぽい場所はあったけど、ぼっとん便所でな……」

「そんな話は聞きたくねぇ。オレにバケツかぶせるなら、おめぇもかぶれ!」

「わかってるって。それで? エルフたちは?」

「この先まっすぐだ。行ってみるぞ」


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