1-5

 翌朝。


 オレは昨日のうちに調べた白薔薇学院とやらの校門前にいた。


「しっかし、女ばっかだな……」


 夏休みとはいえ、部活などで登校してくる女子は多い。そんな中、ヤンキーひとりが校門で佇むなんて、視線が痛い。しかも。


「なんなのかしら……あの殿方」

「しっ、見てはいけませんわ! 妊娠してしまいます」


 見るだけで妊娠ってなんだよ。こいつらのヤンキーの価値観ってそんななの!? 意味わかんねー。っていうか、さっさと『西東京の魔女』を探して退散したい。ここは少し強めに出るか。


「おい、女ァ!」

「きゃぁぁぁぁ! 変質者ですわぁぁぁ!!」


 かっ、肩を叩いただけでこれぇ!? 変質者という声に、周りの女子たちの強い視線がオレを取り囲む。女だからとおもって甘く見ていたが、ぶっちゃけこの視線は痛い。


「ちょ、ちょっと待て、オレは人探しを……」

「お待ちなさいっ!」

「あっ、高坂さん!!」


 振り向くとそこには、ボブカットの女がいた。身長は大体オレの頭1個分小さいくらい。160くらいか。冷徹そうなメガネにいかにも女子高の長っぽい雰囲気だ。


「うちの学院生に汚らわしい手で触れないでください。もうすぐシスターが来ます」

「だ、だからオレは人探しに来ただけだって! 『西東京の魔女』……いや、ここでは『白薔薇のメデューサ』か。髪はロングで黒かったような……顔はあんまり覚えてねぇんだけど」

「人助けだったら警察に頼みなさいな。あなたのような汚らわしい方がこの辺りをうろうろしているだけで、風紀が乱れます」

「風紀?」


『なんでも先公の犬だかなんか知らん女が、風紀を仕切ることになって……』


 昨日戦った地元ヤンキーの言葉を思い出す。


「お前か! 風紀を仕切ってるっていう、白薔薇の……」

「おやおや、何事ですか?」

「シスター!」

「坊や、悪いけどこの辺はうろうろしないでくれないかしらね。懺悔なら教会のほうでいくらでも聞きますが、ここは女学生の園です。男児禁制なのですよ」


 ちっ、ようやく見つけたと思ったのに、これ以上の深追いはNGか。一旦引くか。

 

 オレはやっと見つけた『高坂』とかいう『白薔薇のメデューサ』をじっと見つめる。せっかく見つけたのに……。


「じゃあね」


 シスターに手を振られ、仕方なくホテルへ帰ろうとしたそのときだった。


「今夜23時、校門で待つ」

「え?」


 高坂はオレの耳元でそうささやいた。

 もしかしてこれは、宣戦布告!? よっしゃぁ!! これで西東京の魔女とタイマン張れるってわけだ!

 浮かれたオレは、スキップでも踏みそうになりながら、白薔薇学院を後にした。

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