1-6

 そして約束の時間、23時。


「高坂来ねぇな」


 白薔薇学院は全寮制らしく、敷地の中に寮があるとは知っていた。だとしたら、あいつも多分寮生だ。23時に男と会うなんて、かなりヤバいんじゃ? いやでも誘ったのはあいつだし……。


「にしても、来ない」


 23:15あの女、遅刻だ。何してやがんだ、ちくしょう。


「おーおー、イラついてやがんなぁ、オイ」

「!!」


 後ろの門を見ると、そこの上にヒョウ柄のパンツにカラフルな迷彩Tシャツを着たやつがいた。


「誰だ!?」

「誰だって、さっき会ったろ? もう忘れたのかよ。脳みそ詰まってんのか」


 ボブカット……もしかして。


「西東京の魔女?」

「その呼び方やめろや。ここは西東京じゃねぇし」

「っていうか! お前さっきとずいぶんと態度がちげぇじゃねぇか!!」

「たりめーだろ! ここじゃ一応『風紀委員・高坂ユナ様』で通ってんだぞ!」

「それが解せねぇって言ってんだろ! なんでヤンキーが先公の犬やってんだよ! 白薔薇のメデューサってなんだよ! あの時と違って髪も切りやがって!!」

「あー……いっちいちうっせぇなぁ。子犬かよ」


 先ほどのお高いお嬢様……のはずの高坂は、耳の穴をほじりながら面倒くさそうな顔をする。

 だが、すぐに瞳を輝かせてオレを見た。


「とりあえず、久々の娑婆だからな! 全寮制とか肩が凝るし、お嬢様の振りもめんどくせぇんだわ。そうだ、今からコンビニでも行くか? 今ならヤンキーたむろってんだろ? 潰そうぜ!」

「いきなりそれかよ! っていうか、お前はバーサーカーか。オレは別にこの地元のヤンキーにケンカを売りにきたんじゃねぇんだからよ」

「はぁ? 何言ってんの、お前。だったら何しに来たんだよ」

「……なんでお前、北茨城なんているんだ? 南校退学になったんだってな」

「えっ、まさかお前……私をここまで追ってきたのか?」

「うっ」


 改めてそう言われるとなんだか恥ずかしい。べ、別に好きな女を追ってここまで来たってわけじゃねぇ。オレの目的は『西東京の魔女』を連れ戻して、地元の治安を守るためだ。


「お、お前、勘違いすんじゃねーぞ!! オレがここに来たのは……」

「へー、ほーん、ふーん」

「ニヤニヤすんじゃねぇ!」

「だったら何が理由なんだよ。私はここでおとなしくお嬢やってなきゃいけねぇんだよ」

「寮抜け出しの時点でおとなしくねぇだろ」

「あっそ、だったら帰る……」

「いや!! 待て待て!!」

「…………」

「…………」

「そんな子犬みてぇな顔すんじゃねぇよ、戻れねぇじゃねぇか」


数秒見つめ合うと、高坂は照れ臭そうにする。だからそういうんじゃねぇんだって!


「ともかく! なんでこんなお嬢校にいるんだよ! お嬢なんて柄じゃねぇだろ!」

「いや? うちはもともと良家だぞ? 地元で暴れすぎたから、親が少しは女らしさを学べってんでここに来た。シスターが『拳は正義のために使え』とかなんとか言うから、風紀委員もやることになった。まぁ用心棒だな、私は。『この学校入れてやるから用心棒しろ』みたいな。特に用事ねぇなら、マジで帰るぞ。ヤンキー潰しの誘いかと思ったのに」

「あっ! ちょっと待て!」

「だから何」

「ヤンキー潰しじゃなくて、オレとタイマンってのはどうだ?」

「はぁ――?」

「おやおや、西東京の魔女とか白薔薇のメデューサっていう異名はハッタリってか?」

「あぁん? 上等じゃねぇか……。小童め、しつけが足りねぇようだな?」


 よし、これでいよいよタイマンだ。

 これでオレが勝ったらオレが西東京1の男だ!!

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