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いきなりだが、ピンチだ。オレは顔をひきつらせた。


N市最寄りの駅から降りると、そこには族車とヤンキーがお出迎え☆ 

せめて兵隊を連れてくればよかったが、向井すら地元が襲われたときのために置いてきてしまったからなぁ……。


ここはどうするか。


「おい、てめぇが榊か?」

「……だったらなんだよ、あ?」


 特攻服の野郎ににらみを利かされて、オレもにらみ返す。


 いやぁ、どうすっかなぁ。多勢に無勢だ。ひとりでこの人数は相手にできない。最悪、バイクを壊して「火をつけるぞ!」と脅すか……。


「おめえが『白薔薇のメデューサ』を引き取ってくれんだな!?」

「……は?」


 トップクのやつはオレの手をがしっと握る。な、なんだ? なんでいきなりこんなフレンドリーに。というか、『白薔薇のメデューサ』って?


「待てよ! オレが連れ戻しに来たのは『西東京の魔女』で……」

「それが『白薔薇のメデューサ』なんだって! いやぁ、あいつのせいで最近女がな~」

「女?」

「私立の女子高『白薔薇学院』。そこの女をチームで持つのがこの辺だとステータスだったんだけどよ、なんでも先公の犬だかなんか知らん女が、風紀を仕切ることになって……そいつがつえぇのなんのって。誰も『触れられねぇ』んだからな」

「!!」


 触れられない。西東京の魔女だ。魔女は、この地で『白薔薇のメデューサ』として生まれ変わったのか。しかもよりによって『先公の犬』……。


「ふん、犬だろうが蛇だろうがどうでもいい。オレが魔女を連れ帰ってやるよ!」

「……と、その前に。やっぱり腕試しはさせてもらいてぇな」


 やっぱりそう来るか。周り6~7人といったところ。


「ボコる気か?」

「白薔薇のメデューサはこの数をひとりで潰した。それができなきゃ倒せねぇ」

「それもそうか」


 ちっ、めんどくせぇな。ステゴロ上等だけど、バタフライナイフ以外の武器を持ってくればよかったな。……と、ナイスなところろに角材が落ちてるじゃありませんか! 誰のか知らんが奪っちまえばこっちのもんだ。


 ダッシュでバイクに立てかけてあった角材を持つと、隙があった右3人の頭を容赦なく殴る。そりゃあもう、座禅を組んでいる人間を和尚が警策で打ちつけるように。


「なっ、不意打ちなんて」

「卑怯も何もケンカにねぇわ!!」


 角材で目のくぼんだところを狙うと、見事に先にいた1人にヒット。そのまま反対側にいたもうひととりにも同じように食らわせる。


「――ってぇ!! ぶっ殺すぞ、ゴラァ!!」

「うっせぇ、雑魚は雑魚らしくぶちのめされろや!!」


 先ほどの作戦通り、ガソリンタンクを手早く開き、バイクを倒す。手にはジッポのだ。ヤニは吸わんが、龍が彫られたジッポを持っていないヤンキーはうちの地元にはいない。


「おらぁ、火の海にすんぞ、コラァ!!」

「やれるもんならやってみろ、ゴラァ!!」

「んじゃ、遠慮なく」

「マジもんか、お前!!」


 オレが火をつけようとしたところ……。


「お前ら何をしている!!」

「やべ、サツだ!! 逃げろ」


 サツ? やべぇな。ここは誰かの親戚や息のかかった人間がいる西東京じゃない。三十六計逃げるにしかず!!


「あっ、待てっ!!」


 オレは急いで今日泊まる予定のビジネスホテルまで走った。

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