第12話 ギルド【アルカトラズ】②

 闇ギルド【バベル】。


 その正体は依頼された仕事は確実にこなす少数精鋭の闇の集団であり、その素顔を見た者は誰もいないと言われている。依頼料は中小ギルドの全財産に及ぶ程であるが、それでも依頼は何処かで確実に行われているとされている。


 つまり狙ったターゲットは確実に逃げられないという事だ。


 「うきゃきゃ!避けてばっかじゃつまらねぇ!お前の剣術もノードもゴミ同然だ。なんでお前なんかが依頼されてんだ?」


 「うるせぇよ!依頼してきた奴は誰だ!」


 「うきゃきゃ!言えるわけないだろ。それに依頼を取って来るのはフォックスで俺達は死んだら入れ替わりで組み入るメンバーだ。俺達もある意味では雇われって事になるんだよ!」


 モンキーの攻撃は伸縮自在で近付く事が難しかった。何故なら近付けば近付く程にその速度が上がるからだ。更に厄介なのは伸縮というだけあって剣で切り裂こうにもその部分が伸びて上手く斬れなかった。


 「うきゃきゃ!剣撃?打撃?俺には無駄よ。それこそ婆さんみたいな大穴開けてくる奴は苦手だがな。それにしてもお前よ、マジでノードレスなのにノードをどうやって手に入れた」


 「ああ?言えるわけないだろ!」


 「だよな。うきゃきゃ!ま、フォックスの拷問で死ぬ前に確実に聞かれるだろうからよ。その時は心の準備しといた方がいいぜ」


 これに負けたらあの拷問がもう一度行われる。そう考えるだけで震えが止まらなくなり視界が歪んで見えてくる。


 「うきゃきゃ!ビビってんな?ビビってんなぁおい!!」


 「うるっせぇ!!」


 飛んでくる猛攻に剣で防ぎきる事しか出来なかった。打撃も斬撃が有効でないとすれば勝つにはノードしかない。だが収束と集束をするにしてもどうやったって集中する時間が必要だ。


 もっと考えろ。ノードとは何か、もっと知るんだ。


 「うきゃきゃ!オラオラオラオラ!!!」


 ノード【伸縮】。あれは己の身体を高速で引き延ばしたり縮めたり出来る能力。ただしよく見ると両手での攻撃は一切なく右手での攻撃の時は右手のみに集中していた。つまり右手のみにノードを収束している。


 ノード自体も付けっぱなしの電気の様にはいかず、オンオフが必ず必要だ。ノード自体は身体全体に集束させ、そのノードの一部を収束させてこちらへ攻撃してくる。


 つまり攻防一体のノード。よく考えてあるもんだ。


 それならこっちも身体の一部に集束する事から始めるしかない。レイは右手の剣で攻撃を受け止めながら左手に風を集束させた。


 「うきゃきゃ!避けてばっかじゃよぉ!面白くないってんだよぉ!」


 「だったら近付いて来いよ。ぶった斬ってやるからよ」


 「うきゃきゃ!無駄過ぎるだろさすがに。他の連中もやり合ってるし時間はいくらでもあるんだよ!リスキーな事はしない主義なもんでね!」


 打撃斬撃が利かない攻防一体のバランスを取った状態で近付いて来るほど不用意な男では無かった。それでも10メートル以上離れているのに1秒間に2発は殴って来る攻撃に隙がなかった。近付けばもっと速いのだろう。


 だが、そんな事ばかりしているレイではなかった。先程の地上まで押し上げた風の力を今度は手の平から確実に出す。あの勢いならぶっ飛ばせるかもしれない。集束も収束も完了した左手には風の力が乱気流の様に集まっている。


 次の拳を避けたその瞬間レイは左手を出した。


 「くらいやがれ!!!」


 ドンッ!!!!


 一気に吹き上げた風は凄まじい爆音と共に発動した。が、拡散し過ぎたせいかその勢いは無くなっていた。


 「う、うきゃ。音でか。ビックリさせやがってよぉ!」


 確かに上手くはいかなかった。


 だがやった事はBARから地上に上昇する時と全く同じ要領。何が違ったというのか。更に放った衝撃で左腕が強く傷んでいた。


 「うきゃきゃ!耳元で打たれたら鼓膜がイカれちまうな。念の為に身体全体にノードを強くしとくか。ま、お前は近付く事も出来ないと思うけどな」


 近付く、衝撃。そして拡散。


 レイは今やれるノードの能力を理解した。あの時は環境が大穴の出口目掛けて一方通行で"飛び上がる"というイメージがあった。要は相手をぶっ飛ばすというイメージではなく、ノード自体がどういう役割をするかをイメージするんだ。


 「うきゃきゃ!何をぼーっとしてんだ!オラァ!」


 モンキーの放った右手の攻撃をレイは額で受け止めた。血が滲んで顔に垂れてくる。だがこれでいい。レイはモンキーの右腕をがっしりと掴んだ。


 「うきゃ、もしかして伸縮の戻る力で近付こうって算段か!だったら押し込んでもっと伸ばしてや―――」


 その瞬間、位置についてよーいドンと言わんばかりの速度でレイは超加速してモンキーに近付いた。モンキーの腕は遠く彼方まで伸びきっている。


 「うきゃ……お前どうやって……」


 「足の裏に溜めた風圧で一気に近付いただけだ」


 「うきゃきゃ!だがお前このままどうするってんだ!打撃も斬撃も衝撃すら俺には無意味だぜ!!」


 「分かってるよ。オラァ!!!」


 レイはかかとに溜めた風圧でモンキーを蹴り飛ばした。その力は軽々とモンキーを空高くにぶっ飛ばした。だが上空にいるモンキーは余裕そうな顔付きで自分の手を戻しながら笑みを浮かべている。


 「うきゃきゃ!!凄い破壊力。でも俺には利かないなぁ!!」


 「分かってるよ。だからこうするんだ」


 モンキー目掛けてレイはノードを蓄えた。収束、収束、収束。目にも見える形となった風は更に集束を重ねて大きな力となる。


 「今度こそくらいやがれ!!」


 放ったのはより強く、より細く集めに集めた風の槍。それはモンキーの腹に命中するが伸縮の力でどこまでも伸びていく。


 「うっきゃー!?これは、どこまで!?」


 その力は永遠に続く程に伸ばしていき、まるでモンキーの身体の腹がどこかに消えて行ったようにも見える。ノードには人固有によって能力値がある。つまり伸縮自体もいずれ能力の限界があるという事。


 「うきゃ。まさか、そんな!俺の伸縮が終わろうとしている!?つまり、これは――――」


 「ぶっ飛べ」


 まるでゴム鉄砲で弾かれたようにモンキーは空高く永遠に飛んで行った。この様子じゃ確実に宇宙までぶっ飛ばされたに違いない。


 ノード【天地開闢】。名前通りの力かは分からないがそれでもこのノードの力は大きな力を与えてくれる事が分かった。誰かを守れるだけの力を。

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