第10話 店主【バーバラ】
ゴミ箱を抜けた先がパイプの滑り台になっていて、その抜けた先にある光の外がBARだなんて夢にも思っていなかった。レイはぽかんと口を開いたまま動けずにいた。
洗い終わったコップを拭いていたカウンターにいる亀のような顔をした横に大きなお婆さんがこちらを見て話しかけた。
「いらっしゃい。ワシゃここの店主のバーバラさ。どれ、まずは傷だらけの身体を癒さんとね。イオリ、見てやんな」
「はいは~い」
イオリと呼ばれた小さな子供がソファーから立ち上がり駆け寄る。そしてイオリの身体全体が優しい光で満ちていく。そして抱き締められるとみるみるうちに爪や指が治っていった。
「す、すごい!手を触れるだけじゃなくて全体回復を!?」
「うちのギルドはどれも優秀な連中が多くてね。ソフィアが帰ってくるまでに色々説明しとかんとな。こっちおいでやさな。椅子に座んな」
イオリに手を引かれたままカウンターへ向かう途中、ソファーに青黒い目をした男が銃の手入れをしている。
「あの人は?」
「ワルイドだよ~。無口だけどいい人!とっても強いんだよ~!おに~さんのが100倍強いと思うけど!」
イオリがそういうとワルイドがちらりとこっちを見た。こっちはさっきまで自分が弱すぎて打ちひしがれていた所だ。勘弁してくれと言わんばかりにワルイドの目を逸らしてカウンターへ着いた。
「あ、あのバーバラさん聞きたい事が―――」
「ワシゃ全てを知っている。お主が聞きたい事も、これまでの全ても。だから質問する必要はない。いいから聞いてなさい」
そういってグラスに入ったジュースをこちらに渡してきた。それを奪い取ってイオリがゴクゴクと喜んで飲んでいやがる。
「まずはワシらは全員ノードレスの民であり、更に言えば【ヨルムンガンド】によって魂を受けた器。存在こそ異端ではあるが我々ノードレスは魂を絶塔へ届ける必要がある。ワシらギルド【アルカトラズ】が絶対に、な」
「ヨルムンガンド!?それにアルカトラズって……」
突然の衝撃的な内容にレイは驚きを隠せなかった。バベルの連中はおろか今まで誰かに話した事もないヨルムンガンドの秘密。それを一体なぜ知っているのか。
「てことはアリア―――」
「聞け。順番に説明するわい。まず2層に出たアヴァゴウラ。あれはお主が引き寄せてしまったのは間違いない。どちらかと言うとアリアナの魂じゃがな。お主が外へ出た時にファフニールの前で放ったノードが引き金じゃ」
あんなそよ風に引き寄せられてやってきたって一体どういう事なんだ。だが質問をすると恐らくまた止められてしまうだろう。
「恐らく三天神が消えた理由やヨルムンガンド全員の失踪もそこに謎がある。それを探す為にワシらは10層へ行く必要があるのじゃ」
そこまで知っているとなるとノードによる力なのだろうか。それとも何処かから見ていたのか、はたまた全て嘘で騙されている可能性もなくはない。
「先程襲ってきたギルド【バベル】の連中じゃが、闇のギルドは誰かからの依頼がないと動いたりはせん。どいつからかは知らんが奴らはプライドが高い連中じゃから時期にここにも来るじゃろうて」
背筋がぞくっとした。
ここにいるバーバラとイオリはどう見ても戦闘タイプではない。つまりこのワルイドが何とかしてくれるのだろうか。それでも4人掛かりとなると恐怖でしかない。
「さて、ここに奴らがここに来る前に説明しとかんとな。お主のノードについてじゃ。ヨルムンガンドのアリアナはかつて三天神が恐れるノードを持っておった。その名も【天地開闢】。じゃがノードの詳細は一切明かされておらぬ上に、お主の力量で扱える物ではない。じゃから使えん上に使えてもそよ風じゃ」
「天地……開闢……!?あのそよ風が!?」
もしかしてからかわれているのかと疑ってしまうがバーバラが決して冗談を言うタイプに見えないのは確かだった。
「ではどうするか、イオリ。言うてみ」
「収束と集束!」
はーい!と手をあげてイオリは答えた。
「そう。【収束】とは力の結び。つまりお主の起こした風はバラバラになった糸。それを強く結び合わせる必要がある。そして【集束】より集めて力を一点に結び付けるのを意識するとよい」
つまり一般的な治療職ノードが手に集中して傷口を直しているのは力の収束と集束をするため。だがイオリの場合特別強力だから身体全体の接地面から全体回復が可能だったというわけだ。
「そして一番大事な話が――――」
ズザザッ!!!
滑り台から急いで降りてきた青髪の女の子は必死な顔でこちらを見た。
「伏せてー!!!」
ドガアアアアアアアアアアアアン!!!!
突然の大爆発と共に屋根が吹き飛び、落ちてきた天井という名の地面と共に全員が生き埋めになってしまった。
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