第2話 能力【ノード】
祭りの音が遠くで鳴っている中、レイは路地裏で静かに涙を流していた。どうして俺ばかり、と何度も口に出して唇を血が出るほど嚙み締めた。
誰も期待なんてしていない。そもそもノードレスなんて存在してないのと変わりない。
そんな事を思っていた時だった。
「時は、来た」
小さく耳元で囁かれた女性の声に驚いて立ち上がるとどこか遠くで鐘の音が響いて聞こえる。だが周りには人もおらずこの街に鐘は存在しなかった。
「今のは一体?」
「私の話を聞いて……」
また耳元で誰かの声が聞こえるが振り返ろうが上下を見ようが誰も見えなかった。
「誰だ!」
「私はアリアナ。元【ヨルムンガンド】のメンバーです。三天神を助ける為に魂のみの存在としてここに戻ってきました。お願いします、私を絶塔9層へ連れて行ってください。あの日の真実を知る必要があるのです」
「残念だけどよ、俺ノード持ってないんだ。………劣等種なんだ。だからあっちにいるシンって奴に頼んでみろよ。いつか9層へ連れてってくれるかもしれないぜ」
レイは自分で言っていてなんて情けない話だと感じていた。
本当に力さえあればレイ自身が連れていきたいくらいなのに人に頼ってばかりだ。ノードなしでさえシンに完全敗北したばかりなのだから。
「私は貴方に相談しているのです。お願いできませんか」
「だから!俺は絶塔へ入れないの!ノードがないから!」
「ノードがあれば行けるのですね」
「ったりまえだ!何十回でも何百回でも連れてってやるよ」
わかりました。と呟くと目の前に小さな青い光が輝き始めて
レイの心臓奥深くへと入っていった。
「うごっ!!!」
すると身体は放熱してドクンドクンと心臓の鼓動が大きく鳴る。息苦しささえ覚え始めてレイは膝を付いて呼吸だけに集中した。
「はっ……はっ……なんだ……これ……」
レイはそのまま蹲って気を失ってしまった。
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まさかとは思っている。
自分でも馬鹿な事をしているのは自覚している。
誰も居なくなった真夜中、レイは絶塔の入り口まで来てしまっていた。ついに劣等種は夢を現実だと思い込むまで来てしまったのだと。
ノードを貰ったのが真実なら絶塔の入り口に張っているノード持ちのみ通れる膜に入れるだろうからだ。その先はワープゾーンになっていてそのまま1層へと向かう事が出来る。
「俺、本当に馬鹿になっちまったのか……?あ、あはは。でもマジでノード貰ったってのならここも通れる道理。お、俺だって信じちゃいないよ。だ、だけど100万分の1の可能性だってあるはずだ」
そう言いながら入り口の膜にそっと指を入れてみようとすると膜は固く閉じたままだった。あれは夢であり現実などでは全くなかったのだとレイは思い知らされた。
「……だよな」
トボトボと帰ろうとしたその時何かに躓いて絶塔の膜に向かって思いっきり転けた。その瞬間膜の中へと身体がスルっと入っていく。レイは頭の中が真っ白なまま絶塔への入り口を抜けていった。
ちゅんちゅん。
さわさわ。
天気は快晴。春の陽気に包まれ小鳥たちが羽ばたいている。花が床一面に咲き乱れており、その世界はこう呼ばれていた。
「第一層:楽園の都」
レイはついに絶塔(ゴディアス)の中にいたのだった。
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