アルカトラズ・ファウンド
小東凛太郎
第1話 劣等種【ノードレス】
街の真ん中には巨大な塔が存在している。誰がどんな目的でその塔を建てたのかは分からない。言い伝えによると竜神様が絶塔(ゴディアス)の頂上に住み、この世界を見渡す為に作られたなど言われている。
この物語はその絶塔に挑む一人の冒険者のお話。
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「英雄の凱旋だー!」
「ついにあのギルド【ファフニール】が絶塔5層をクリアしたぞ!」
「こいつは祭りだな!!」
たくさんの人たちが絶塔から帰ってきたギルド【ファフニール】のメンバーを歓迎して出迎えていた。現在ファフニールを超えるギルドは存在せず、絶塔攻略により持ち帰ってきた品をみんなが楽しみにしている。
レイはじっとファフニールのメンバーを見つめていた。そのメンバーの中に昔からの幼馴染であるシンがいたからだった。
昔は一緒にギルド最強を目指すと話をして剣術を磨いたり、大きな夢を語らって過ごしたものだ。だがシンは急速に成長し、今では街一番のギルドの副隊長として認められている。
それに比べてレイはまるでダメだった。
絶塔へ挑むには竜神の意志【ゴディアスノード】通称ノードが必要になる。これはこの街で生まれてから5歳程でほぼ全ての人間が覚醒したように目覚めるが、稀に才能のない人間にはノードが発生せずそういった人間は【ノードレス】と呼ばれる。
レイは今17歳になるが未だにノードは発生していなかった。
「俺だって、ノードさえあればシンみたいに……」
「なれね~よバッカだな~!あいつは天才なんだぜ!」
そう言ってからかってきたのは友達のクウェインだった。ギルド【サラマンダー】に所属する剣士で、気さくなイイ奴だ。センターパートに分けた赤髪が燃えるサラマンダーの色を想像させる。
「俺だってギルドに入って3年、未だに下から3つ目のクラスEだぜ?あいつは入ってすぐクラスCで今じゃ街一番のクラスAだって聞く。ノードだけであそこまで上がれるわけね~っての!」
「うるさいな!俺だってあいつと剣の修行してきたんだ!」
「そんで戦績は?」
「最後にやったので99戦99敗……」
レイはしかめっつらで答えるとクウェインは大声で笑った。何度も言っているはずの内容なのに毎度笑いやがる嫌な野郎だ。でもクウェインは肩に手を回してニカッと笑った。
「安心しろ。あいつは天才でも俺は凡才だからな。お前がノードを発現するまでちょいとばかし待っててやるよ。ま、あんまり遅いと追いてっちまうけどな~!剣の練習はしとけよ!あと今日は5層クリアのお祭りだかんな~~!」
そう言ってクウェインは祭りの準備へと出かけて行った。走った先には大勢のサラマンダーのメンバーがいて楽し気に笑っている。レイはクウェイン以外の友達はおらず、ずっと孤独だった。
毎日剣を振っているのにノードは発現せずギルドにも行けない。
シンは今や英雄として称えられているのにレイは未だスタートラインすら超えられていない。
「くそっ」
レイは地面を蹴り飛ばして祭り会場へと歩いて行った。
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大きな屋台がずらりと並びたくさんの人が賑わいを見せている。
5層で取れた珍しい珍味や珍品がずらりと並び競売に懸けられていた。シンの周りには多くの女性やその他ギルドの面々が並び、その栄誉ある話を聞く事に必死だった。
「これはなんですか!」
「こいつは5層で出会ったアヴァゴウラという魔物の素材だ。今まで出会った中でも最も恐ろしい魔物だったよ」
自慢気に話すシンは多くの人に取ってきた素材を説明してみせていた。
賑わいを見せる中、全ギルドを治めるファブリアスは中央の高台から大きな声を上げた。新たな層を跨ぐ度に同じ話をするのはいつもの事だ。
「この世は100年前、ギルド【ヨルムンガンド】の三天神様により上層部9層へ向かわれました。しかしその後の足取りはポツリと消えてしまい戻って来る事はありませんでした。その後突如として解散したヨルムンガンドは今では消息を絶ちました。それ以来誰一人として4層ですら攻略を出来ず立ち止まっていたのです。しかし、ギルド【ファフニール】がついに新たな扉を開きました!これで世界は大きく前進する事でしょう!」
街の平均年齢が23歳と若い中、ファブリアスは今年で84歳を迎える。それは数多くの冒険者が絶塔へ挑み、死んでいくからだ。
かつてのヨルムンガンドを伝える為に生きなければならないと言っているが、皆が皆信じているわけではない。9層などと言っているが文献もなく証拠品もなく、ファブリアスが嘘をついているかボケが始まっているとまで言われていた。
しかしレイはその言葉に心臓の高鳴りを感じる。かつての三天神である霊魔のヴァイス、寵愛のロスティマ、そして英雄アテム。レイにとって見た事も話した事もない人間であるがその存在は憧れの存在へと変わっていた。
「俺もいつかヨルムンガンドみたいな英雄に……!」
「何が英雄だ。お前みたいな劣等種のノードレスが」
そこに現れたのはシンだった。街の人たちがざわつく。
シンは鬱陶しそうな顔でこちらを睨みつけていた。
「い、一体何が気に入らないってんだよ。俺なんか悪い事でも言ったかよ」
「何がヨルムンガンドだ、何が英雄だ。そもそも存在してたのか分かりもしない連中と何故俺たちが比較されなきゃいけない。そもそもお前みたいなノードレスが英雄になれるわけないだろ」
4層を突破した時もファブリアスは同じ事を言っていた。6層をクリアしても尚ヨルムンガンドの話をされるだろう。気持ちは分からなくもないが、なぜレイだけを睨みつけてくるのかは分からなかった。
「お、お、俺だってノードさえありゃ英雄だってんだ」
「だったらやってみろ。俺もノード無しでやってやる。100勝目を飾るいい機会だ」
そう言ってシンは両手剣の一つである長剣を渡してきた。シンは短剣の方を手に取り構える。恐らくハンデのつもりだろう。
「俺に負けたら二度と俺の前に現れるな劣等種。街の繁栄の為に一生働くんだ」
「なめるなよ!!」
ガギィン!!
たった一撃。惜しい戦いでもない。
こっちから振り上げて攻撃した長剣はいとも簡単にはじかれた後、顔を掴んで地面に叩きつけられた。既に短剣は首元に静かに置かれていた。
「失せろ」
街の人の誰一人止めようとはしなかった。それどころか賞賛を浴びせる声が広がっている。これが英雄の力だとか、5層突破の副隊長だとか。誰もレイの事など見ていなかったのだった。
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