第7話 闇より出でし者【アヴァゴウラ】
慎重に進行するメンバーは地図を基に進んでいった。
探索班がクリスタルスパイダーを見つけると遠隔攻撃による炎が襲い掛かりいとも簡単に鉱石が手に入った。更に音に反応して襲い掛かるスカルデビルにはバリアを張って一瞬一時凌ぎした後、レイとクウェインの攻撃により討伐。
連携もそうだが作戦がしっかりしているとこうも簡単に進行できるものかと思ってしまった。
だがこんなメンバーでも3層に行けないという事は5層を突破したファフニールのメンバーの凄さを実感する。
「よし、こんなものか。一度撤収だ。俺から離れるなよ」
地図を頼りにメンバーは来た道を慎重に戻り出した。
その時だった。
バサバサバサバサ!!!!!
大きな羽音を立てて蝙蝠が逃げる様にどこかへ飛んで行く。音に敏感な蝙蝠だが今まで全く音などしていなかった。
「なんだ!?」
ガサガサガサガサ!!!
近くにいた虫たちまで逃げ去る様に何処かへ消えて行くのが見える。その中にはクリスタルスパイダーの姿もあった。
「ボルケーノ!何か、何かやばいぜこりゃ!」
「嫌な予感がする。急いでここを脱―――」
ボルケーノは言葉を飲んだ。
この洞窟は一本道が多く、第二層:闇の迷路にふさわしい場所だった。だからこそ逃げ道はなく進むべき道は決まっている。
「なんだ、あれは……」
闇から現れたその魔物はヤギの顔を被った4メートルはあろうかという筋肉隆々の4本腕の魔物だった。
見た事も聞いたこともないはずのその姿だったが、あの頭部の素材をどこかで見た事があった。
「あれは、5層のアヴァゴウラ……。祭りでシンがみんなに説明していた出会った中で最も恐ろしい魔物……」
「馬鹿な!?みんな今すぐ」
ボルケーノは大きく息を吸う。
アヴァゴウラはゆっくりと助走を始める。
「に」
全力疾走に入る頃には遅かった。
「げ」
バァン!!!!
壁に叩きつけられたボルケーノは肉片へと変わり周囲に温かな血と臓物を撒き散らした。
「は?」
「えっ……」
まだ30メートル程の距離はあったのだ。
それをたった一歩と言わんばかりの速度でこちらへ向かってきた。
「ウヴォオオオオオオオオオオオ!!!!」
悲鳴にも聞こえるアヴァゴウラの声に全員一斉に逃げ纏った。そこにはもう陣形など存在せず蜘蛛の子を散らす勢いだった。
「きゃああああああ、ぶっ!!!」
「うわああああああああああ」
悲鳴が次々に鳴り止んで行く。
なにが、なにが起こっているんだ。
どうして5層の奴がこんな所に出たんだ。
おかしいだろ。
「はっ」
息を飲んだその瞬間、目の前にアヴァゴウラが現れた。
ヤギの様に細い目はこちらとハッキリ目が合っているのを感じる。
「はっ」
息の仕方を忘れた。
「はっ」
息ってどうやるんだっけ。
「逃げろレイ!!!」
剣を持って襲い掛かったのはクウェインだった。
「食らいやがれ!!竜閃乱舞!!」
凄まじい速度で攻撃を振りかざすクウェインの攻撃に対して左手の拳をぶるんと振り回す。
たった一撃で剣ごと粉砕してクウェインの鎧を破壊しながら壁に叩き付けた。
「ガハッ!!!」
大量の血を吐き出しながらクウェインは痙攣したまま動かない。
「クウェイン!!!」
クウェインに近付いたその瞬間には背後からレイを目掛けてアヴァゴウラが拳を振り上げていた。
「どいてろ新人!!!」
レイはマグルマに押し退けられた。アヴァゴウラの拳はマグルマの斧ごと粉砕して顔面を殴打した後、そのまま地面へと殴りつけた。肉が引き裂かれたマグルマはよろよろと動いて倒れた後動かなくなった。
クウェインはぶるぶると震えた身体でレイの手を取った。
「に……げろ……レイ……」
誰も生き残ってなどいない。結局誰も彼もの足を引っ張ってしまった。クウェインだけでも死なせはしない。
「うあああああああああああ!!!!」
ノードを発動するも何の役にも立たない。剣で向かった所でクウェインの刃ですら通らなかったのだ。勝ち目はないだろう。
「何の力もないんじゃ意味ねぇだろ!!いいから早く力を貸せ!!!うあああああああああ!!!」
風がアヴァゴウラを中心に収束していく。
「もっとだ。もっと俺に力をよこせえええ!!!」
ズパァン!!!
アヴァゴウラの腕が捻じれながら弾け飛んだ。と、思った次の瞬間だった。
「かかれぇ!!!」
一斉に襲い掛かる謎の集団。
近距離戦だというのに全ての攻撃を受け流している。
更には後方支援によりアヴァゴウラの足は固定され一歩も動けない。たった5秒にも満たないその一斉攻撃は見事アヴァゴウラを倒しきった。
何が起きているのか全く理解が出来ない状況で走り寄ってくる女。
「この剣士さん重症です!今すぐ治療します!」
「そいつはロフィナに任せた。調査班はどうしてアヴァゴウラが2層に出たのか徹底的に調べろ。地図の書き換えも必要になるかもしれない。護衛に近接班を付けろ!」
治療班はクウェインを運び出し、辺りは一斉に動き出す。
「さて、今どういう気持ちか聞かせてくれ。そよ風」
「あ……」
ギルド【ファフニール】のシンがゆっくり顔を覗き込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます