第8話 親友【クウェイン】
ただ起きた事だけを説明した。
探索帰路で魔物達が逃げたと思った時に現れた闇より出でし者。次の瞬間にはサラマンダーは全滅して今の状況になった事。それがたった1分にも満たない話だった事。
「お前が厄を呼んだのかもな。家で一人で居れば済んだものを劣等種がしゃしゃり出てきたせいでこうなった」
周りを見渡すと血しぶきと臓物が広がり続けていた。クウェイン以外の誰一人生きて帰る事が出来なかった。
「本来昨日探索するはずの任務をお前に邪魔されたお陰でみんな死んじまったんだ。どう責任取るんだよ劣等種」
「俺……俺は……」
「シン。そこまでだ」
白髪に長い髪の毛を下した男が声をかけるとシンは溜息をついて何処かへ消えた。
「俺はファフニールのギルド長のグラディウスだ。たった一瞬だっただろうが最悪なものを見過ぎた。今日はクウェイン君と帰りなさい。いいね」
「わか……りました……」
そう言って傷が回復しきったが目を覚まさないクウェインを背負い2層を後にした。
全てを一瞬にして失った。
これから冒険が始まるはずだった。
「ぐっ、うっ……うわああああああああああああ!!!」
そよ風が吹いて花畑は揺れ動く。これほどまでに鮮やかで美しかった景色は今では灰色に見えていた。
―――――――――――――――――――
ギルドのテントに戻ったレイは背負っていたクウェインをベッドに乗せた。
昨日あれだけ騒がしかったテントは脳裏で今でもあの笑い声が聞こえてくるのに静まり返っていた。割と人で混雑していたテントなのにこんなに広かったんだと実感する。
「お、俺は……」
「クウェイン」
起き上がったクウェインは周囲を見渡してハッキリと状況を理解した。
「あれからどうなった」
クウェインは冷静にレイに質問をした。
答えたくもないが、答えなければならなかった。
ギルド【ファフニール】に助けられてアヴァゴウラは倒したがサラマンダーのレイ、クウェインを残す他の全てが全滅した事を告げた。
静かにクウェインは聞いた。一言も声は出さなかった。
「冒険するにしてもいつかはこうなるかもっていう話もしていたんだ。あんな長い道のりを運んでもらって悪かったな」
「クウェイン……」
どう言葉を出せばいいか分からない。助けてくれてありがとうなのか、助けられなくてごめんなのか。一切分からなかった。
だがクウェインはレイの頭をぽんっと叩いた。
「サラマンダーの燃える炎は消えね~よ。心配すんな。もう一回立ち上げるしかないな。俺がなんとかしてやっからお前は一旦家に帰れな、レイ!」
クウェインは友達だが少し大人だった。どれだけ成長すればクウェインに追い付けるだろうか。
レイは一度帰宅して眠りについた。
だがアヴァゴウラの目や血の惨劇が頭にこびりついて離れない。
「はぁ……はぁ……」
恐ろしくて震えが止まらない。シンはあんな化物と戦っていたなんて。
「はぁ……ふう……」
明日からもっと真剣に修行しよう。クウェインだけは絶対に死なせるわけにはいかない。自分にとっての唯一の希望だから。
そう思うと身体は少しづつ落ち着きを見せ始めて眠りについた。深い深い眠りへと。
――――――――――――――――――
翌日
レイは起きてから準備をしてギルド【サラマンダー】に戻る事にした。
とにかく修行が必要だと自覚したレイにとってもう迷う道はなかった。仮にあのアヴァゴウラの腕を吹き飛ばしたのがレイによる能力であればもっと強くなれるかもしれない。
状況によってはファフニールの誰かがやったようにも見えるが確かにあの瞬間、アヴァゴウラ周りを収束する感じで揺れ動く空気の流れを感じた。
レイはテントに付いて大きく深呼吸した。
「よし」
ガバッとテントの入り口を開く。
「クウェイン、おは――――」
信じられない光景だった。
いや、少し考えれば想定内であるはずの光景でもあった。
クウェインは首を吊って死んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます