5話 悪夢との再会2

 出かける準備の時に、ディラティがやけに張り切っていた。

 サニー様、今日はこの薄紫のドレスなんていかがでしょうか。これはあなた様の魅力をより一層際立ててくれるのは間違いないです。ええ、ええ、これでいきましょう。誰もがあなた様を振り返らずにはいられませんから。そんな独り言のような台詞を彼女は着替え中ずっと言っていた。

 

 支度が終わり玄関へ行くと、紺色の見慣れた制服を着たエドガーが、黒の手袋を装着しているところだった。私の姿を見たエドガーは無言でじっとこちらを見た。いつになく真面目で熱心にこちらを見ているから、大丈夫ですか、と尋ねれば。

「記憶にその姿を焼き付けていました」

 とため息をつきながら言う。いつも通りなので私は安心することにした。さあ、とエドガーは私に手を差し伸べる。その手を私が取れば、彼はそっと微笑んで玄関先へと私を招いた。

 

 エドガーの職場はクリアアイズの家から徒歩で十五分くらいの距離だった。街中を二人で歩いていると、なぜかすれ違う人たちからなんとも形容し難い謎の視線を感じる。

「エドガー?」

 名前を呼べば、はい、と返ってくる。

「通行人の視線が痛いのですが、私、もしかしてひどく変な格好でもしていますか?」

 エドガーはいいえ、と言った。

「おそらく私が、あなたという素敵すぎる女性と歩いているのが皆さん信じられないんです」

 この白ねずみの瞳を通した世界は、きっとお花畑とチーズの山に違いない。

 

 大きな建物をぐるっと囲う門の前で私たちは立ち止まった。大きな建物は宮殿のように見えなくもない。

「軍は王宮の付属品みたいなものなのでここにあるんです」

 エドガーは私の名前をとても柔らかで楽しそうな声で呼んだ。私が視線を王宮から彼の顔に移すと久方ぶりに彼は微笑んだ。

「今日は何があっても私のことを普段通りに呼んでください」

 え、と驚く私にエドガーはほくそ笑む。

「いいんです。そのほうが私の気分が良いんです。クリアアイズ師匠とかクリアアイズ軍師とか呼ばれたら、せっかくのあなたとの外出気分がガタ落ちですから」

 つまり彼は今を楽しんでいる、ということなのだろう。そっとしておこう。

 

 エドガーは通行証を門番に見せ、私の名前を来訪者用のリストにきれいな文字でサラサラと書き込むと私の手を取った。私はエドガーに手を引かれて王宮の中へ入った。

 

 入ってすぐ広々とした講堂。

 

 そこには紺色の軍服を身にまとった男性たちがまばらにいた。エドガーが現れるなり、視線が一斉にこちらに集まり、皆がエドガーの方を向いて敬礼してみせた。私は気圧されて立ち止まる。それにエドガーは気がつき私の肩に手を置いて、こちらです、と案内してくれた。私は部屋の全方位から視線をものすごく感じながら進んだ。

 

 まあ私が彼らだったら、誰だあれ、くらいには思うだろうなぁ。

 

 講堂を抜けると広い中庭に面した廊下があった。廊下の天井は所狭しと芸術家たちの作品で装飾があしらわれ、さすが王宮、と思わずにはいられない。

 私が口を開けて見渡していると、中庭で様々な稽古をしていた面々がエドガーに気付きそれぞれ挨拶してくる。エドガーは彼らに小さく頷くと私にもっとこっちへ来てください、と言わんばかりに手で私の肩を引き寄せてくる。

 ここでも好奇の目で見られたというか、私が直視していなくとも視線を感じるのはちょっと怖い経験だった。襲いかかるような不安に私は隣で歩く軍師を見上げた。

「エドガー」

 私はしっかりとしゃべったつもりだったが、虚しく声は震えた。すると私の肩に置かれた手に一層と力が入り、私は彼にしがみつくようにして前へ進んだ。

 

 廊下を通り抜けると目の前に重厚な両開きの扉があった。この先に用があるんです、とエドガーは私に微笑んだ。そこを潜り抜け、扉が閉まろうとした瞬間、中庭にいる軍人たちの様々な声が聞こえたような気がする。あまりにいっぺんに聞こえてきたので私は全てを聞き取ることができなかった。印象的だったのは恐れ、羨む声、そして安堵。安堵?

 

 重厚な開きの扉の向こうにもう一つ同じ両開きの扉があった。その扉と扉の間の空間でエドガーが私の姿を上から爪先まで見ると、小さく頷く。

「サニー、ここから先はあなたにとって怖い場所ではありません。それだけは念頭に置いておいてください」

 そう言うとエドガーは扉を開けた。

 

 その先は天井が高く広い四角い部屋だった。きらびやかで上品な装飾がさりげなく施されている。そして部屋の正面に玉座があった。玉座はこちらより数段高い位置にあり、その手前に階段が四段設けられていた。階段の手前からこちらにかけて広い平面の床があり、その広さは二百人程度なら余裕を持って踊れるくらいには広いのではないだろうか。

 

 玉座にはメガネをかけた男性が、黒いシャツと黒い服に身を包んで座っていた。メガネ以外に装飾品らしいものを彼は一切身につけていない。そういえばこの人、昨日私に会いにきた時も装飾品らしいものはつけていなかった気がする。

 玉座から少し離れた両脇には、槍を握り軍服とお揃いの帽子を被った護衛の軍人が一人ずつ控えていた。玉座に座るその人は、エドガーと私が入ってきたのを見ると、知的な声でこう言った。

「軍師よ、休暇中ではなかったのか。なぜわざわざ会いにきた? ここに来たと言うことは何か用があるのだろう?」

 エドガーは私を後ろに連れて玉座へと歩み寄って行った。階段の手前に着くと、彼は片膝をついて王に敬意を表した。

「昨日は、私の弟子に会うために労力を割いていただいたと伺っております」

 今日は改めて彼女を私から王にご紹介しようと思い、連れてきました。エドガーは後ろにいる私を振り返り、手を伸ばして引き寄せると彼の前に立たせ、私の両肩にそっと手を置いた。

「こちらが我が弟子、サニー・ポーターです」

 国王はメガネを外すとあの深緑色の瞳で私を見た。そのメガネって近くを見るためのものなんですね、と私は心の中でにっこりする。

 

 その時王の右手にいた護衛から視線を感じたような気がした。私は構わず国王をただ見つめて挨拶をした。

「国王様、サニー・ポーターでございます。昨日は私のためにお時間をいただきありがとうございました」

 国王は手を挙げると、構わない、私とあなたの間なのだから、と意味深な言葉を放った。その言葉の直後に私の両肩に置かれた手から圧力をがっしりと感じたのは私だけの記憶に留めておこう。私が王に微笑むと王は続けた。

 

「軍師はあなたのことをとても気に入っている。あなたのためなら国を滅ぼしかねない勢いなのだから。どうか、私の立場を理解してくれるのなら、私と友好的な関係を続けて欲しいものだ」

 と、面白がるような表情で国王は私の顔と私の頭上に見えるだろう顔をじっくりと眺めていた。しばらくして王は首を傾げた。

「その様子だと、軍師はあなたの記憶を観たのだろうか? 数日で知り合ったにしてはあなたたちはとても仲睦まじく私の目に映るのだが」

 その質問に私はなんと答えたら良いのかわからなかった。観たと言えばそうなのだが、全てはまだだ。それに仲睦まじく見えると言われて、私にどうこの場で答えろと言うんだろう。私が答えに困っているとエドガーが代わりに口を開いた。

「私はわずかながら彼女の記憶に触れました。その聡明さと優しさに私は彼女に控えめに言っても心酔しています。また彼女の能力は私の力以上に強力で、国王にとっても有益なものになることと私は確信しております。国王が仰った通り、私は彼女のためなら一個人の人生程度なら躊躇なく奈落に突き落とすくらい造作なくやって退けるかもしれません」

 私は疑問に思ってエドガーを振り返った。一個人の人生? だけどエドガーは優しい眼差しを私に注いだだけだった。国王は何を思ったのか、そうか、と呟く。

「サニー・ポーター。と言うわけなのだから、私としてはあなたの願いをなんでも聞き届けてあげなければならなくなった。この軍師は飛び抜けて頭がよい。戦う力においては我が全軍がかかっても、この男一人だけが生き残るだろうことくらい安易に想像できるのだから」

 遠慮なく言いなさい、と国王は言った。遠回しにエドガーを、そして私を敵に回したくない、と言われたと受け取って良いのだろうか。エドガーは私の両肩にそっと力を入れると私の耳元で、こう囁いた。

「何を望んでも良いと、王がおっしゃられていますよ」

 私は困った。何を望むかと言われましても。

「国王様、私が望むのは平和な人生です。国王様のお手を煩わすような望みを私が抱くとすれば、それは私の平穏が脅かされた時かと」

 国王は、ほう、と興味を示したように姿勢を正した。その視線は私に向けられていたのか、それとも私の後ろの人物にだったのか。

 

 その時、国王の右側の軍人の手から槍が滑り落ち床にカラン、と音を立てた。そこにいた一同の視線がその軍人に集まる。その人は槍を拾おうとしてまた床に取り落とした。

 

「も、申し訳ありません」

 掠れた声で軍人は謝罪した。手のひらに汗でもかいているのか、白いグローブをわざわざ外した手を軍服になすりつけて拭っている。エドガーは私の肩に手を置いたまま、私の横へと立った。

「国王」

 エドガーの言葉に王は、なにか、と応えた。

「その右側の警護の者は酷く疲弊しているように見受けます。国王の身に何かあってからでは遅いので、代わりの者を警護に付けるよう進言いたします」

「ああ、そのようだな。提案に感謝する」

 王は、それだけエドガーに伝えると私をあの眼差しの強い瞳で見た。

「なにかあれば言いなさい。無欲恬淡な魔女よ」

 無欲恬淡……なんか難しい言葉が出てきた。確か意味はあれこれ欲しがらないことだった気がする。

 

 私がはい、と言うとエドガーが私の肩に手をおいて、帰りますよ、と囁いた。私は彼の後ろをついていくと一度、玉座を振り返った。そこには実に興味深い、とでも言いたげな顔の王が玉座で頬杖をついていた。

 

 玉座の部屋から出て、両開きの扉が完全に閉まると、エドガーは壁に向かってしばらく無言でお腹を抱えて動かないでいた。私は彼の具合が悪いのかと思い、その背に触れると小刻みに震えているではないか。

「エドガー? どうしたんです? 大丈夫ですか、何か怖かったんですか?」

 

 彼が私の名前を震える声で口にしたが、その声は笑いを堪えている声だった。一体何がそんなに面白かったんだ? 国王の言葉に親友にしかわからないような隠された意味でもあったのだろうか?

「エドガー、何がそんなに面白かったんですか? そんなに面白いことなら私にも教えてくださいよ」

 エドガーはそうですよね、あなたがわからないんじゃ意味がない、と笑い息継ぎをする。


 どういうことだろうか。


 エドガーは壁からこちらを振り向くと、目に涙を浮かべていた。それを指先で払うと、彼はこう言った。

「あの場にクライド・バックワーズが警護としていたんです」

 私は首を傾げた。エドガーはまた声を出して笑い出す。ひとしきり笑うと、はぁー、と思う存分に笑った者がつく、ため息を発した。

「ほら、王の玉座の右側にいたでしょう?」

「ああ、槍を取り落とした人ですか?」

 私は驚いた。クライド・バックワーズが、あの場に軍人として勤務していたなんて、想像もつかなかったのだから。

「ええそうです。今日ちょうど彼は護衛の役割が与えられていました。彼は私たちが謁見の間に入ってくる私とあなたを見て疑問に思ったでしょうね。見覚えのある顔が軍師に連れられて来た、と」

 私があなたを王にご紹介した途端に彼が驚いたのを、私は見逃しませんでした、とエドガーがまた笑う。

「国王があなたのことをとても穏やかに迎え入れた様子を見れば、王の言った通り、あなたと王が親しい間柄というのがあの場で暴露されたと言って良いでしょう」

 あれは予想外な言葉でした、とエドガーが一瞬表情を消して言う。予想外が余計なという意味を含んでいそうな言い方だ。

「軍の中では階級がものを言います。おかげで私が計画していた以上にバックワーズに恐怖を与えることができたようなので、私の気持ちは晴れました。もう彼はぐっすりとは眠れません」

 罪悪感に苛まれるだけでなく、国王と私に断罪されるのをこれからずっと生きている限りずっと、怯えて生きていくんです、と悪い顔で言った。

「生きた心地がしなかったでしょうね」

 エドガーは思い返しているのか、ぼーっと宙を眺めた。

「だからあなたが国王に何も望まなかったのは、彼にとって救いでした」

 ああ、サニー、とエドガーは私の後れ毛を手で耳にかけるような仕草をした。

「もしバックワーズが今後何かあなたにしてくる気配があれば、私は国王に全て打ち明け、彼を躊躇なく速やかに奈落に落とします」

 それだけ言うとエドガーは私の表情を見て柔らかに微笑んだ。

「サニーのためなら私は何でもしますよ」

 さあ、家に帰りましょう。

 

 

 王宮を出て私とエドガーが歩き始めると、後ろから息を切らして誰かが走って来た。エドガーが振り返ると、いつも以上に厳しい顔をしている。その顔を見て私も背後の人物に視線をやった。

 

 そこにいたのは夕日の光を閉じ込めた髪の男性、クライド・バックワーズがいた。背丈が伸びて軍人らしい体型と男らしい顔つきになったとは言え、その人物が彼だと認識することができた。その瞳は相変わらず吊り目ではあったけれど、記憶している程の嫌な印象は受けなかった。クライドはエドガーではなく、私をまっすぐに見ていた。


「サニー・ポーター様。自分が昔あなたにしたことは許されることではありません。……虫の良い話でしかありませんが、良心の呵責に耐えきれないので謝らせてください。本当に、申し訳ありませんでした」


 クライドは必死にそう言った。エドガーはクライドにたずねる。

「私の弟子は、話せばそれ以上に理解を示してくれる聡明な人です。本当に許して欲しいのなら、なぜ後悔するような行動をあなたが取ったのか説明するべきではないか?」

 クライドはエドガーの言葉に頷くと、顔を真っ赤に染めてこう言った。

「 じ、自分が愚かだったのであります。あまりに愛らしい姿に、なんと言葉をかけて良いかわからず、ふざけて声をかけるしか出来なかったのです。そのうち自分は口すら聞いてもらえないのだと思い、顔を見るたびに悔しくて腹が立って泥と暴言を投げました。完全な逆恨みでした」

 まさかの告白に、私はびっくりして言葉が出てこない。代わりにエドガーは囁く。

「同情はする」

 エドガーがそう言って尚、クライドは顔を真っ赤にしながらも私の顔をじっと見つめていた。きっとこの人は、私の率直な言葉が聞きたいのだ。私は頭の中で言葉をかき集めて、差し出すことにした。

「クライドさん……大丈夫ですよ。私の中ではもう整理できているので、ご安心ください」

 それだけ言うと、私はクライドに背を向けて歩き出した。やや間を置いて、エドガーが私の後を歩く気配がする。

 

 私たちはしばらく無言で歩き続けた。でもだんだんとお互いに喋らずにはいられなくなった。

「サニー、本当に整理できているんですか? またあの夢を見たら今日みたいになるんでしょう?」

 エドガーの心配はごもっともだった。忘れた頃にあの夢はいつもやって来たのだから。私は師の言葉にうーん、と悩んだ。

「まあ、また見たらその時はその時です。でも次回からはあなたが理解してくれているので、今回よりはずっと楽でしょうね」

 すると隣で歩く男は得意げに小声で、ほらね、この白ねずみにお話しして良かったでしょう、サニー? と囁いてくる。私は、本当にそうでしたね、と頷いた。

「エドガーのおかげで、なぜクライドが私にだけあんなに執拗に嫌がらせをして来たのかわかって気持ちがスッとしました。さすが軍師になれる頭脳の持ち主です。彼が謝ってくるのを見越して今日王宮に向かったんですね」

 そういう意味では楽しい職場見学でした、と私が付け加えるとエドガーが少しの間黙った。私が顔を見上げると、彼は仕方なく、といった雰囲気でこう言う。

「いや、別に私はバックワーズに謝罪の機会を与えたつもりはないですよ。王と私というあなたの人脈で圧迫感のある恐怖を与えて、謝罪させる余地を与えずにしておこうと思ったくらいでしたから」

 私はエドガーの考えに率直な意見をぶつけた。

「意外と意地悪なんですね」

 と、言えば彼は真顔になった。ムッとしているのだ。

「あなたが寛容で聡明なだけですよ」

 彼の言い分はこうだった。

「私は祖父に、女性と子供は優しい眼差しで育むものだ、と言われて育ちましたから」

 バックワーズのしたことは私としては許せなかったんです。

「まあ、あなたが可愛いくて話したいのに、自分の頭が足りないせいで相手にしてもらえない苦しみは理解できなくもありません。私も、あなたが考えていることを察することは容易にはできませんから」

 とエドガーはこぼす。

「男とは哀しい生き物なのです。好意を伝えるためには素直さと勇気と言葉がいるのです。勇気があっても言葉を使うには頭がいるのです。特に秘匿性の高い想いに関しては、恥を感じることなく口にすることも難しいのです」

 エドガーがわけのわからないことをひとりでぶつぶつと言っているのを、私はただ隣で聞いていた。今日一日を振り返っただけで結構疲れた。

 

 そういえば、と私は思い出した。

「今日国王に事前に何か口裏でも合わせていたんですか? やけに話が上手にまとまっていませんでしたか?」

 エドガーはそうですか? と私を見下ろした。

「王は、単純に言いたいことを言っていただけですよ。あの方はご自分の興味にしかほぼ関心がないんです。彼の政務は日当を稼ぐためだけにやってます。その日当は趣味に費やされ、彼の趣味は読書と人間観察です」

 あー。なんとなくわかるかも。

「あいつの好きな本のジャンルは純愛とか悲劇とか……心の変動の激しい作品が好きですね」

 あの澱みない湖面のように落ち着いた雰囲気の国王がそのような本を好んで読んでいると聞いて私は純粋に驚いた。

「そうなんですか?」

 意外です、と私が言えば

「ええ。彼は行間を読みこむタイプで、書かれていないことを読み取る能力が非常に高いです。人間らしさとは感情からくる、とよく言って女性がため息をついて読むような恋愛小説を好んで読んでいらっしゃいます」

 へー。人がとても好きな方なんだろうな、と私は想像する。

「これは秘密ですが、王は気に入った本があると匿名で熱烈なファンレターを作者に送りつけるんですよ。まあそうすると作者は続きを書いてくれたり、本の業界の人たちがこの作者の作品は売れる、と感じて作者にもっと書くように促すんです。そうしていくつもの名作が生まれたのは数知れず……ってサニー、国王に興味があるんですか?」

 エドガーの問い詰めるような視線から私は目を逸せない。

「いえ、あなたが何故彼を親友として選んだのか、気になっただけです」

 あなたが彼を友と認めた理由が。

 

 エドガーは私の視線をとろんとした様子で見ると歩みを止めた。思わず私も足を止める。

 

 私があなたを見たのは魔法による予知夢でした、とエドガーはぽつりと言い出した。

「王は、小さい時からあなたの話を熱心に聞いてくれた、祖父母以外で唯一の人です」

 エドガーの話に、身を入れて耳を傾けてくれたのがダニエルなのだ。確かにそれは、親友になり得る要素のひとつだと私は思う。

「良い親友ですね」

 ええ、と彼は肯定した。

「私の少ない休暇を浪費しても許されるくらいには信頼しています」

 思い返して私は笑った。

「王様、開口一番に、あなたは休暇中ではなかったかと言いましたよね」

「ええ。それをあなたが言うんですか、とは護衛の手前、言えませんでしたが」

 エドガーは一日休暇延長できませんかね、と呟いた。星たちが夜空で何か囁き出していた。私にはただの瞬きや囁きにしか思えないそれも、エドガーが見聞きすれば意味を成すのだろう。

 

 サニー

 

 柔らかな声で名前を呼ばれた。

 

 なんですかエドガー、と応じれば彼はこう問いかけた。

「私の弟子として働くことに、今日不安を感じませんでしたか?」

 正直に言っても私は咎めませんよ、とエドガーは囁く。私は彼のそんな優しいところにも惹かれつつある。この人はいつでも私の心を尊重してくれるのだ。

「私の能力をお役立てすることにはさほど不安は感じませんでした。でも男性ばかりの環境に身を投じられるほど、現時点の私の心は強くないかと」

 夢の最後に幼い私が呟いていた、男の子きらい、という言葉が心にこだまする。その言葉のなごりが、今でも心に痛みを残しているのだ。

「私も嫌だと思っていました。今日の反応を見た限りでも、大半の男どもがあなたを振り返っていて気が気でなかったです。国王に交渉して家で仕事ができないか伺ってみます」

 家で軍のお仕事ができるんですか、と驚く私にエドガーは微笑んだ。

「あなたと私の望みなら、王はきっと叶えてくださいますよ」

 その根拠は? とたずねればエドガーは、王は今私たちに興味津々でしょうから、と一度言葉を切ると、さあ中へ入りましょう、と言った。そこはもうクリアアイズの家の前だった。

 

 私は首を傾げてエドガーの後ろ姿を追いかけた。

 

 Closed.

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