第10話

湊さんと別れてから世界は全て灰色になってしまい、音のない世界のように感じた。俺はずっと部屋に籠りそして毎日涙を流した。それでも一日は過ぎていき、そしてお腹が空く。喉が渇く。そんな自分に失笑し、そしてご飯を食べる。

 母親は最近白髪を染めた。

 仕事以外に出かける回数が増えた。それは俺にとってもありがたい事だった。一人になりたかったからだ。この家では一人の部屋があっても生活音が聞こえる。存在を感じる。母親が動けばその音が聞こえる。しかし母親がいなければそれはない。隣の人の生活音は聞こえるが同じ家にいるのとは違う。

 もうすぐ有休消化も終わる。

 松田さんにもそろそろ返事をしなければならない。けど、今は何もしたくない。

 失恋がこんなにも辛いものだったなんて知らなかった。今まで付き合ってきた人と別れてもここまで辛くはなかった。湊さんは俺にとってとても特別な存在になっていたのだ。

 それを失った今、生きる意味が分からない。どうしよう。俺だけこの世界から取り残されたように、いずみが言った生きた屍の様な状態だった。でも時は刻まれていく。カチカチと秒針は進む。

 そんな毎日を過ごしていたら久々にスマホが音を立てた。

 画面を見ると蓼丸さんからだった。俺はその着信になんとなく画面に表示された通話という文字を押していた。

「はい」

『ああ、天馬君。久しぶりだね。元気にしてる?』

「はい。まあ元気にやってます」

『そう。それならいいんだけど・・・。あのさ、天馬君が良かったら明日会わない?ご飯でも食べに行こうよ』

 明日・・・。

 外に行きたくなかった。

『無理そう?』

 その優しい声につい俺は「いや。大丈夫です」と答えていた。

『よかった。じゃあ後でお店と時間メールに送るから見てね。明日楽しみにしてるよ』

 じゃあ、と言って電話を切った。

 蓼丸さんの声を聞いたら行くと言ってしまっていた。今すごく人の優しさを求めているのだと気づいた。

 直ぐに明日の詳細が送られてきた。そう言えば今日は土曜日だったんだなとスマホの日付を見て気づいた。

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