第28話

講演会当日

ハルは講演を行う橋本と倉沢の病院に来ていた。

ハルと橋本が準備をしているのをリコは会場の入り口で見ていた。

そこへ倉沢がフラッと入って来てリコに声をかける。


「どうも」


「お、倉沢先生。ハルに会いに来たんですか?」


「はい、約束したんで」


倉沢はそう言いながらハルの姿を探した。

ハルは橋本とパソコンに向かいながら話をしている。


「とにかくエンターキー押しながら喋って下さい。スライドを置いてけぼりにしないでね」


「あの家庭版の問診票を配ってほしいんだけど」


「資料に挟んであります。ペンいります?」


渡されたペンを胸ポケットに差し込もうとした橋本が苦い表情で環奈を見る。


「あっ!白衣ないとまずいよね?」


手に持っていた白衣をかかげるハルに橋本は感慨深く何度も頷いた。


「さすがだね、ありがとう」


「白衣嫌いなの分かるけどさ」


ハルは橋本が白衣を着るのを手伝いだから小言を言う。

リコは倉沢に解説した。


「橋本先生は児童精神科医でね、ハルの最推し。凄い良い先生なんですよ」


「あんなに仲良いもんですか?」


「ハルはいつもどの医者にもあれが普通。仕事してんの。嫉妬しない!嫌ならあんたも仕事に戻りなさい」


倉沢はふてぶてしく「はい」と呟くと黙ってハルの様子を見守った。

楽しそうに談笑したり、真剣に仕事の話をしているハルを見ていて倉沢は思わずため息が漏れる。

その様子を見てリコは少し笑った。

講演を聞きに来た人たちが入り始めて、リコと倉沢は会場の外で待つことにした。


「ハルの顔見たら私は仕事に戻るからさ」


「そうなんですか」


「落ち込んでないでしっかりしなさいよ」


「別に落ち込んでないです」


講演会が始まり、無事に進行しているのが分かるとハルはようやく会場入り口に移動した。


「リコちゃん!あ!倉沢〜!」


ハルは開放感いっぱいの笑顔で嬉しそうに2人に近く。


「倉沢がハルと橋本先生が仲良いの嫉妬してた」


「え?なんで?」


「大丈夫です」


「じゃあ私は戻らないと。お疲れ、ハル、また電話する〜」


ハルは去っていくリコに手を振る。

そして倉沢に目を向けた。


「え、みんな忙しいんじゃない?!倉沢は?!こんなとこいていいの?!」


「大丈夫です、昼休憩ずらして来たんで」


「14時だよ…?」


「大丈夫です」


「なんか、忙しいのにありがとう、わざわざ来てくれて」


申し訳なさそうに微笑むハルに倉沢は優しく微笑み返した。

ハルは少し驚いたように顔を上げ、でもすぐに目をそらすように俯いた。

変わらず濃いグリーンのスクラブに白衣を羽織って、両ポケットに両手を突っ込んでいる。

ハルはちょっと笑って、白衣の胸ポケットに掛けてある裏返っているネームを直した。


「今日はグリーンなんだね。青とグリーンしかないの?」


「尾崎さんがグリーンが好きって言ってたんで、今日はグリーンにしました」


「私が好きっていうか、倉沢にはグリーンの方がいいなって思ったの」


「どっちでも変わらないと思いますけど」


「倉沢はカッコいいよ」


意外な言葉に倉沢は目をパチパチさせる。

ハルは少し恥ずかしそうに目を泳がせた。それからハッとしたように顔を上げた。


「からかってないです!」


ハルの言葉に倉沢は思わず吹き出すように笑った。

その笑顔になんだか嬉しいようなくすぐったいような気持ちになったハルは小さくはにかんだ。


「倉沢、ご飯まだなんでしょ?ちゃんと休憩取らなきゃダメだよ」


「大丈夫です」


「それしか言わない」


ハルは困ったように笑った。


「倉沢がこうやって時間作ったり、藤森やリコちゃんに頼って会いに来てくれるのは嬉しいよ。無理してない?」


「無理は、してないですね」


ハルは少し安心したように微笑んだ。


「いつもありがとう」

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