第26話
「尾崎さんはなんで医局秘書の仕事してるんですか?」
「えー気になる?」
「はい」
「でもなんでっていうのはなくて、好きだからかな。人の機嫌や望んでることを先回りして対応するのが」
「変わってますね、疲れませんか?」
「人って察してもらうの好きじゃない。言わなくてもしてもらえた時の反応って凄くて。それが楽しい」
ハルは少し照れ臭そうに笑った後、「倉沢は?」と話を逸らした。
「僕は小児科やってたんですけど、消化器はちょっと専門が違ってて。
ちゃんと勉強し直したくて来た感じです」
「マジ?小児科医なの?城野先生知ってる?ズッ友なんだけど」
「尾崎さんは自分がどれだけ凄い人たちと関わってるか自覚した方がいいです」
「小児科だったかあ…なんか分かるな。倉沢、優しいもんね」
2人はお互いの病院の医師や組織体制について話をした。
気付けば日付を跨ごうとしており、ラストオーダーを告げられる。
注文はせず、店を出た。
「送りますね」
「断っても引かないでしょ?」
「はい」
ハルは少し笑ってフラフラと歩き出す。
少し歩いたところで、ハルは隣を歩く倉沢の腕を引いた。
「ねえねえ倉沢」
「なんですか?」
「来週…だったかな。うちのドクターがそっちの小児科に講演しに行くの。たぶん私も付き添うんだけどさ」
「はい」
「…うーん、たぶん私は講演中、リコちゃんに会いに行くんだけどさ」
「はい」
「…はい」
途切れた会話に倉沢はハルを見た。それから自分の腕に添えられたままのハルの手を見る。
そして思い出したように立ち止まった。
「ああ、会いに行きますよ」
同じように足を止め、顔を上げて倉沢を見るハル。
「今度はどうやって会ったらいいかずっと考えてたんで」
倉沢の言葉にハルは照れ臭そうに俯いて笑った。
そんなハルを見て倉沢は少し笑った。
「尾崎さんも察してほしい時があるんだ」
「ん?」
「確かに良い反応が見れて嬉しいですね」
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