第25話

ハルが何杯かおかわりを頼んだ後も、リコと高杉は戻ってこない。

倉沢はハルの飲むペースに呆れながら言った。


「2人とも全然戻ってこないけど」


「ほら、こういう気持ちになるでしょ?!」


「やっぱりなとしか思いません」


「…そうね」


ハルは「なんか負けた気がする」と呟きお酒を飲み干す。

そして気を取り直したように笑った。


「よし!次のお店行こう!」


「まだ飲むんですか?」


呆れる倉沢にハルはムッとして見せる。


「なに?飲むよ?帰りたいの?」


「いや、ただちょっとペースが…」


「分かった分かった、ペース落とすから」


ハルはあしらうように立ち上がる。


「たぶんここ、倉沢の奢りだよ」


「そうでしょうね、お安い御用です」


倉沢が伝票を持って会計に持っていく後ろを「さすが〜」と言いながらついていくハル。

「次どこ行く?」としつこく聞くハルを完全にスルーしながら会計を済ませて店を出る。

そこでようやく倉沢が口を開く。


「尾崎さんは何を飲みたいですか?何が好き?」


「日本酒」


ハルの答えを聞いて倉沢は辺りを見回しながら歩き始めた。

ハルは訳も分からずついて行くしかなかった。

趣きのある居酒屋に入り、2人はカウンター席に通された。


「ここは毎週新しい日本酒が入るそうですよ」


倉沢はそう言いながらメニューを差し出した。

ハルはメニューより倉沢を見た。


「調べたの?」


「はい。藤森先生が尾崎さんは日本酒が好きだって言ってたんで」


ハルは呆れたように倉沢の方を向いたまま頬杖をついた。

倉沢もハルを見る。


「ねえ、藤森はなんで私とリコちゃんが友達って知ってんの?キモくない?」


「尾崎さんが話したんじゃないんですか」


「…言った、のかな…」


「藤森先生は物凄く権威のある人なんですよ。尾崎さんは藤森先生の扱いが雑すぎます」


「関係ないね。私にとっては居酒屋でたまたま出くわしたただのおじさんだもん」


ハルは軽く微笑んでメニュー表に目を移した。

2人でメニュー表を覗き込み「これも気になる」と言い合いながら、注文をした。

盃で軽く乾杯をして、2人で決めた冷酒を飲む。


「んー、美味しいね」


ハルが嬉しそうに笑い、倉沢は「はい」と頷きながら微笑んだ。

盃に冷酒を注ぎながらハルが神妙に呟く。


「やばい、水みたい。サラサラ飲めちゃう」


「尾崎さん、ペース」


「はいはい」


ハルは何度か倉沢に注意をされながら、2人は様々な種類の日本酒を飲んだ。

話題はそれぞれの仕事に関することだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る