第24話
「尾崎さんは可愛いですよ」
チラッと倉沢を見てすぐにテーブルに視線を戻すハル。
そんなハルの顔を覗き込むように倉沢は続けた。
「僕は尾崎さんに5分会うために2時間往復します」
リコと高杉はなんのことやらという顔をしているが、ハルはようやく顔を上げた。
「僕は残業ばっかりだし、日当直も、オンコールも、休日出勤もあるんで、遅刻もドタキャンも僕の方がたぶん多いです。
仕事終わりや休日も会議や研修やらで1人にしておく時間の方が多いと思います。
LINEもロクに返せないし、電話もいつ折り返せるか分かりません」
3人とも倉沢から目が離せなかった。
「それでも時間を作って、5分会うために2時間往復します」
あちこちから賑やかな声が響いているのに、4人のテーブルだけがやけに静かに感じる。
それくらい、倉沢の声はストレートでやけにはっきりとしていた。
「それくらい、また会いたいと思ってるんで」
忘れていた瞬きを思い出したようにハルは目をパチパチした。
そしてむーっと頬を膨らませた。
「倉沢、モテるでしょ。私はヤキモチも妬くからね!可愛いスタッフとイチャついてるのなんてすぐリコちゃんから情報流れてくるんだから!」
リコが「いや…」と言いかけたものの、倉沢が先にきっぱりと言い切った。
「大丈夫です、僕は感じ悪いから嫌われてるんで」
リコが思わず吹き出し、慌てて咳払いをして真顔を作って見せた。
しかしハルは同じように吹き出した後、ケラケラと笑い始めた。
「倉沢、まだ感じ悪いの?」
「別に感じ悪くしようとしてるわけじゃないです」
「じゃあなんで?笑顔が足りないんじゃない?ちょっと笑って、ニコって。口角あげて」
そう言いながら今度はハルが倉沢の顔を覗き込むように身を寄せる。
「なんですか」
倉沢は照れたように目をそらして笑った。
リコと高杉は少し驚いた顔をした後、顔を見合わせてニヤニヤと微笑む。
「やっと笑った〜」
相変わらずケラケラと笑うハル。倉沢はそんなハルを見て今度は嬉しそうに笑う。
リコと高杉はアイコンタクトをした。
「うちらちょっと外でタバコ吸ってくるね」
リコと高杉が席を立ち、ハルもようやく笑いが収まってきた。
「ねえ倉沢はなんでずっと敬語なの?壁を感じる」
「え?それで壁感じてるんですか?」
「え?壁感じてる」
首を傾げながらお酒を飲む倉沢にハルはむくれた。
「ほら、そうやってすぐ会話切り上げるから感じ悪いんだよ、そういうとこだよ」
「尾崎さん、2人で抜けませんか」
「はい?」
「ん?」という倉沢にハルは真顔になる。
「ねえ倉沢は天然なの?4人で来てるじゃん。そのうち2人はカップルじゃん。ここ2人が抜けたら、それはもうただの解散だよね?
2人で抜け出すっていうのはさ、もっとこう大宴会でやるからバレないのであって、今日はさ、もう、ただ感じ悪いよ」
その頃、外の喫煙所でタバコを吸いながらリコと高杉は協議していた。
「どうする?俺らがこのまま抜け出す?」
「そうだねえ…倉沢のあの感じだとハルを誘ってくれてる気もするが、ハルが一般常識振りかざしてそうだもんな」
「先生のあの熱意伝わらないの、逆にすごくない?ハルちゃん」
リコは深くため息をつき、考えるように目を閉じた。
高杉も2人の様子を思い出すように天を仰ぎ、頷いた。
「うん、でも、大丈夫か」
リコは同意するかのように目を開いた。
「ハルはしばらくあのペースで飲むだろうから、酔ってポロっと倉沢に甘える気がする。
今の段階でうちらは抜けよう」
「御意」
「荷物持ってきたよね。お代は倉沢に任せよう、一仕事した私への報酬」
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