第13話

やっぱーーーーだめか。


僕は、開いた口を無理やり閉めると、諦めたように溜息を吐いた。


家族を失っても、恋人を失っても、僕にはやはり、『哀』の感情が分からない。それどころか、やっぱり笑ってしまう。


今だって、足をガクガクと震えさせながら、恐怖の眼差しで僕を見ている美咲が、可笑しくてたまらない。 


「あはははははっ」


僕は、腹を抱えて笑った。


僕は、花音が本当に大好きだった。できることなら、花音に『哀』というモノを教えて欲しかった。一度でいい、涙というモノを流して見たかったから。


『忘却は、よりよき前進を生む』 


ニーチェの言葉が、ふと過ぎった。


そして、僕が『哀』を知ることを諦めた瞬間だった。恋人や家族が居なくなっても『哀』がわからない僕は、もはや『哀』を知る術はこの世のどこにもないと思ったからだ。


もう『哀』を知ろうとすることも、大好きだった花音の事も忘れてしまおう。


今までだって『哀』を知らなくても生きてこれたのだから。


「花音……」


僕が、花音が死んだことを聞いて笑ったこと、彼女は、許してくれるだろうか?

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