第11話

段々と街灯も少なくなってきた、暗い道端の古びた自動販売機の明かりの前で、美咲が、急に立ち止まった。


「喉乾いちゃった、お水買うね」


「分かった」


美咲は、買ったばかりのミネラルウォーターのキャップを回すと、マスクに手を掛けた。


そして、素顔を晒すと、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干した。


私は、思わず呼吸が止まる。


「どう?アタシの整形うまくいったでしょ?」


まるで鏡に映したかのように、私にそっくりな顔をした、美咲が、ニヤリと笑った。


その途端、私の中に込み上げてくるのは、今まで感じたことないモノだった。腹の底で黒い渦が巻き起こり、細胞分裂を繰り返しながら増殖していく感覚を覚える。


「明日からアタシが花音だから」


「何いってんの!」


「あ、花音も怒れるんだ」


この、黒くて、煮えたぎるモノが、『怒』?

胃の奥底から、今まで吐いたことない言葉が湧き出そうになる。

 

私は、この世に一人でいい、同じ顔なんて要らない。心の中を黒い靄があっという間に支配する。



ーーーーその時だった。


トラックのクラクションと共に、私の身体は、強く突き飛ばされて、宙を舞う。トラックのベッドランプが眩しくて目を細めながら、周りの景色がスローモーションになる。


私は、美咲を睨みつけながら、感情のままに最期の言葉を吐いた。


「赦さないから……」

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