第10話

その日、1ヶ月ぶりに哲学の講義に出席した美咲は、大きなマスク姿だった。


「美咲、大学1ヶ月も休んで、もう体調はいいの?」


「お陰様で。整形やっと終わったの。快気祝いしてよ、今日の夜」


「勿論」


私は、にっこり笑った。



指定されたのは、いつものバーでも、美咲のお気に入りのイタリアンレストランでもなく、道路沿いに面した、小さな公園だった。ブランコと砂場、二人掛けのスチールベンチがあるだけの公園には、私達の他に誰も居ない。


「珍しいね、公園」


「たまにはいいでしょ」


美咲は、抱えていたコンビニ袋から、缶ビールを取り出すと私に渡した。


「有難う」


「ねぇ、先に一気飲みしてよ、アタシのお祝いなんだから」


「……うん、分かった」


私は、あまりお酒は強くないが、美咲の快気祝いだ、勧められるままに缶ビールを一気に飲み干した。喉が熱くなる。アルコールが一気に脳みそにも回って、ふわふわする。


「いい飲みっぷり」


美咲は、優しく微笑んだ。そして、そのまま立ち上がる。


「美咲は、飲まないの?」


「まだ顎が本調子じゃないんだよね、あとにするわ」


「無理しないでね」


美咲は、大きなマスクをしたまま、目元を細めた。久しぶりにみた美咲に、何となく違和感を感じる。整形を何度もしてるからだろうか?


「ちょっと歩かない?運動不足なの」


「勿論だよ」


二人で並んで歩く裏通りは人通りはなく、信号もない為、トラックの裏道となっていた。


スピードをだして通りすぎる数台のトラックを美咲が、睨みつけた。


「危ないなぁ」

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