第6話

「ねぇ、あのカフェ店員と花音って付き合ってんの?」


哲学の講義を広い教室の一番後ろで聞きながら、両瞼を腫らした美咲が小声で私に聞いた。


「うん、この大学の四回生だって」


「友達から聞いたけど、、そのイケメンちょっと変わってるらしいよ?何?変な趣味とかあんの?」


私は、黒板に書かれたニーチェの『忘却は、よりよき前進を生む』という言葉についての解説をノートに書き留めながら、英太の事を考えた。


「変わってる……?」


カフェで出会ってから、水族館、ドライブ、とデートを重ねて3回目のデートで、泣けるラブストーリーの映画を観た後、イタリアンレストランで食事をした。その帰りに英太から告白された。


「すごく優しいし、特に気になることはないけど?」


「ふぅん、単なる、やっかみからの噂かな」


美咲が、切れたシャーペンの芯をカチカチと出しながら、面倒臭そうにニーチェの解説を雑な筆跡で写していく。


「ね、もう彼とシタ?性癖やばいとか?」


唇を持ち上げて、愉快そうに美咲が私を覗き込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る