第4話

「これでも、まだ笑う?」


勝ち誇ったような女の顔が、また滑稽で、私は今度こそ、大きな声で笑っていた。


それ以来、嫌がらせは少しずつ減っていった。『怒』の感情がない私に、相手が最後は、気味悪がって遠ざかっていくのだ。


私はきっと、『喜怒哀楽』の『喜』と『楽』の割合が多くて、『哀』は、感動や、深い悲しみ等にのみ表れるから、割合が他の人より少ないんだろう。だから、他人からの暴力や嫉妬に関して、哀しく感じることはない。


愛犬が亡くなった時は、心から哀しくて涙が止まらなかったし、あとは、感動する映画を見たり、本を読んだ時、涙が出るほど心が揺すぶられる。


そんな私にも、ささやかな悩みはある。それは交際が長く続かないこと。


実際、男の人からの誘いは絶えず、見た目と親のスペックで幾人かと交際した。でも、どの相手とも長続きはしなかった。 


『お人形と付き合ってるみたい』 

お決まりの別れ台詞だった。


「お人形みたい……か」


いつも笑っているからだろう。

誰にも聞かれないはずの言葉は、すぐに拾われる。


「お人形みたい?誰に言われたの?」


見上げれば、私服に着替えた、古谷が私を見下ろしていた。


「あ、あの……」


「此処いい?」 


思わず頷いた私に微笑みながら、古谷が腰を下ろした。手に持っていた、ここのカフェの新作のピーチスムージーをテーブルに、コトンとおく。

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