第3話

「てゆうかさ、その、本当ムカつく!なんで、ずっと笑ってられんの?ムカつかない訳?恵子にも、絵梨子にも、アタシにも」


美咲が、何を言っているのか、私にはよく分からない。


ただ、私の心には何も響かない。


だから、つい意味もなく笑ってしまうのだ。美咲が心配してくれることが嬉しくて、友達の少ない私が、友達の多い美咲と一緒にカフェに行けることがワクワクして楽しくて、私が怪我をしたり、嫌がらせされる度に、怒ってくれる美咲に嬉しくて、涙が出そうになってくる。


「心配してくれてありがとうね、美咲」 


にこりと微笑むと美咲は、怖い顔をしながら、席を立ち、カフェから出て行った。


「はぁ……」


私は、また、美咲を不愉快にさせてしまったようだ。


私は、他人から見たら、欲しがるモノ全てを持っているという自負がある。でも、嫉妬もやっかみも逆恨みも全く気にならない。


それはきっと、たった一つだけ、私にはがあるから。どんなに経験してみたくても、欲しくても、手にできないもの。


ーーーーそれは『怒りの感情』



自分が、初めて『持ってない』と、気づいたのは、高校の時だった。


同じ学校の様々な学年の男の子達から、毎日の様に告白をされ、門の前には他校の男子生徒が、私を目当てに群がる。


快く思わない、一部の女子達から、私はある日、トイレに閉じ込められて、暴言を吐かれた。


数えきれないほどの暴言を吐かれたのに、戸惑っているのは彼女達の方だった。


「なんなの?」


彼女達は、私の顔が気に入らなかったらしく、更にバケツで水をかけられた。


その時、何故だか私は可笑しくなってしまったのだ。


「な……何笑ってるの?」


主犯格の女が笑みを浮かべた私をみて、思わず後ろに下がった。


何故?そんな事、分からない。ただ可笑しくて堪らなかった。 


そして、目の前の女は、私を睨みつけると、腕を振り上げる。


乾いた音と共に左頬に痛みが突き刺さった。

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