第9話

慌てて玄関扉を開ければ、黒のスウェット姿の涼真が濡れた髪のまま手を挙げた。


「おす。お邪魔しまーす、めっちゃいい匂いじゃん」


「ちょっと涼真、まだ髪濡れてんじゃん」


 慌てて私がタオルを手渡すと、涼真がにんまり笑った。


「早く、香恋のカレー食いたくて」


 涼真の笑顔と言葉に心臓が、どきんと跳ねた。どうしたんだろう。涼真はいつもならこんな事言わない。いつも「腹減ったー」とか言いながら椅子に腰掛け、カレーを黙々と食べると私とテレビゲームをして二十一時頃帰っていく。


「あ……あっそ。別にいつものカレーだけど」


 涼真は、ガシガシとタオルで金髪頭を拭き上げながら、ダイニングテーブルに腰掛けた。


 私は、もう一度軽く火をかけて恋カレーを温めるとカレー皿にご飯をよそい、たっぷりと恋カレーをかけて涼真の前にコトンと置いた。


「やばっ。美味そう!」


 目をキラキラとさせる涼真は子供みたいだ。私は自分の恋カレーもよそうと、涼真の真向かいに腰掛けた。私が手を合わせると、涼真も手を合わせる。


「いただきます」

「いただきますっ」


 二人揃って食べ始める。何度もこうやって二人で恋カレーを食べてきたのに、今日だけは私は涼真の食べる姿から目が離せない。


 涼真は大きな口で、じゃがいもも玉ねぎもアスパラも鶏肉もどんどん胃の中へ放り込んでいく。ハート人参が涼真の口に入り、涼真が飲み込むたびに、私は緊張から何度もグラスの水に手をかけた。

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